「死にたい・・・・」
少年は呟いた。


安定のぼっちマス。



『メリーメリークリスマス・トゥ・ユー』



街の喧騒が鬱陶しい。
落葉対策とやらで、葉を全て片付けられ寒々しいだけの姿になったはずの街路樹ですら
煌びやかな電飾を纏う。
きっと、電気の熱で木肌が熱いに違いない。そうじゃなくてもコードなんてまきつけられたら
鬱陶しいに違いない。

人間様の迷惑な祭りに付き合わせられる身にもなってやってくれ。


少年は、白い息を吐き出す。

モスグリーンのコートのポケットに片手を突っ込んで携帯電話を引っ張りだす。
素っ気ない壁紙に時計だけが大きく映し出されたデジタルスクリーン。

『12月24日 17:54』


街は聖夜にうかれている。



もし明日、この世界がなくなるとしたら?
そんなことを大声で叫んだところで、誰も信じないだろう。
人々は、自分の幸せを信じている。疑いもしない。




「まだ6時か・・・。」


なんでもう暗いの?
それは、冬だから。
自問自答の寂しい連鎖に少年は、鼻をすすってごまかした。

「寒い。」

手袋は、さっき駅で失くした。しかも片方だけ。
たとえば右手だけ手袋をはめるのはどうなのだろう。そうとう痛々しいのではないか。
誰も注目なんてしていないのは、分かっていてもそれは嫌だ。


明日になれば、この聖夜も終わるのか。
そうしたらまた街路樹たちは寒々しい姿を晒すのだろう。

ただの日常。寒々しいだけの街。
祭りに乗れなかった者は、その最中も終わった後も、結局は、なんだか寂しいままなのだ。


零れ落ちる溜息がそのまま、凍ってしまいそう。
「はぁぁ〜・・・・」

「なにしてる? 」

「え? 」

少年は目を瞬いた。

「なにしてるんだ。」

頭を垂れていた少年に降りかかる不機嫌そうな声。
はじかれたように視線を上げれば、強い視線にぶつかる。
柔らかそうな赤い髪。
シャープなラインを描く輪郭。
綺麗過ぎる顔立ちには、おおよそ似合わない醒めた視線。


「天使・・・・? 」

青年は眉を顰めた。

「なに言ってるんだ。」

呆れたように彼は溜息をつく。
そう、彼は現れた。突然に。

こんな目立つ人が目の前に立つまで気がつかないだろうか。
急に見ず知らずの自分に何を問いかけるというのだろう。


「あの・・・・なにしてるって? 」
「浮かない顔してる。」
「そ、それは・・・」
「今日はクリスマスだろう。みんな浮かれてるのに、この街でお前だけが
沈んだ顔してる。」
「今日はクリスマス・イヴですよ。それに別に・・・しずんでなんかないし。」

むくれる少年に、青年は興味深げに頷きを返した。

「ふぅうん。それで、イヴになんでお前は不幸そうなんだ? 」
「不幸じゃないです。ただ、」
「ただ? 」

青年は首を傾げる。そうすると、整いすぎた顔が妙に幼く見える。
なんとなく口元が色っぽい。
天使、というより人を惑わす夢魔かもしれない。

「ぼっちマスなんです。」
「ぼっち・・・ます? 」

聞き慣れない言葉に青年は、ご丁寧にも復唱してくれる。

「一人ぼっちのクリスマス、略してぼっちマスなんですよ!!!! 」

「え・・・あ、なんかごめん。」


「謝らないでください。だいたい誰なんですか、あなたは・・・」

「三成。」
「みとぅなり? 」
「どうやって聞き間違えたらそうなる・・・。」

「もしかして、サンタさんかなんかですか? 」

人間ばなれした美しい容貌からして、人と言われるよりも精霊的なものだと名乗られた方が
しっくりくる。


「いや全然。どちらかというと地縛霊だ。」

「は・・・・・・・・・・? 」

自爆?

「天使、とか・・・・ではない? 」
「どちらかというと魔だ。」
「は、はぁ・・・ははっ。クリスマスになんでまた? なんで、僕だけ不幸なんですか?! 」

会えるならサンタが良い!
願うなら天使が良い!

「なんで、話しかけてくるんですか。さらに不幸にしたいんですか? 」
「いや別に。ただ物珍しかったから。」
「沈んでるだけの人間が? 」
「お前、名前は。」

人の質問は無視ですか。

「幸村です・・・・。」

少年は呟いた。どうせ一人なんだし。得体のしれない美人に名を名乗ってもこれ以上、
不幸にはなりようもない。

「もしかして、呪うんですか・・・?」
「呪う必要もなく不幸そうだが。」
「うっ・・・・」

「どうして一人なんだ、お前は? 」

「普段は、全寮制の一貫校に通ってるんです。」
「ふむふむ」
「それで・・・今は試験休みというか、クリスマス休暇というか・・・・。もうすぐ冬休みだし。」
「で、みんな実家に帰ったというわけか。」
「まあ。」
「お前は帰らないのか? 」
「帰らない・・・・。でも一人は慣れてます。あの、あなたは? 」

「俺には、クリスマスなんて関係ない。だいたい年末は忙しい。」
「お仕事・・・ですか。」
「ああ。」
「な、なんの? 」
「彷徨える魂を地獄へお連れ」
「いや、聞かなかったことにします!!!! 」

ていうか、それは死神じゃないのか?!
最悪の最悪。
もう一番会ったらいけない部類の『モノ』と対面してしまっているようだ。

「もしかして〜、三成さんは、僕を殺っ・・・」
「は? 」
「いや。なんでもない。」
「さっき『死にたい』って呟いてたよなー、そういえば。」
「言ってないです! すみません、言ってないことにしてください!!! 」

慌てて幸村は両手を振る。
聖夜に暴言を吐いていたバチなのだろうか。


「美人局かなんかですか! 美人だからって騙されませんからっ死地とかいきませんよ! 」
「うん。落ちつけ。」

まぁまぁ、と宥めて青年は微笑む。

「お前を迎えにくるのは、また今度にしよう。」
「そ、そうですか・・・(くるんだー)」
「それより、」
「はい? 」

「いい名前だな。」
「え? 」

「ゆきむら、」


ねえ、空を見上げてごらん。


「ほら」

そっと凍てつくような空を指さす。

「あ」

小さな氷の粒は、やがて少年の手の中に舞い降りる。


「雪・・・・、」
「昔から、同じ音にかけて雪が降ることを「幸(ゆき)が降る」と考えられているのだよ。
 縁起が良いな。」
「そうなんですか?」

呆然と空を見上げて呟く。
鼻がつんとするのは、寒さのせいか。

「お前にも良いことがあるといいな、幸村? 」

優しい頬笑み。

「・・・・はい」

「幸いが降る。お前の上にも。天がお前を祝福する。でなくても、俺が祝福しよう。」

三成は幸村の頭をわしゃわしゃと、撫で回した。
祈りと言うには、あまりに乱暴。慰めと言うには、あまりに不器用。

だけど、
誰の上にも降る雪をあなたが特別に変えてくれる。


「あなたが、天使でも悪魔でもどっちでもいいです。ありがとう、三成さん! 」
「礼を言うには、まだ早い。」
「は? 」

「クリスマス、俺も楽しみたい。」
「え? 」

それが本音だよね。
目が真剣だもの。

「いや、人の世のことに興味があるということだ。遊びたいとかじゃないからな。
 実体験せねば分からないことだらけなのだぞ・・・! 」
「ちょっ・・・そんなこと言われても〜」


「さあ、幸村、行くぞ! 」
「ど、どこへ・・・・・?! 」

「今度は、幸村にクリスマスをいろいろ教えてもらわなくては、な? 」

頬笑みは天使のように。
たくらみは悪魔のように。

どうやら、とんでもない美人に好かれてしまったようだ。



聖夜は終わらない。
ネオンは輝く。


雪降る夜には、御用心。




END.


幸村くんはこのあと、どこへ連れて行かれたのか・・・。
ぼっち高校生幸村と、綺麗なお兄さん三成のめくるめくクリスマス
の予定がwwwなんで人外設定になったんだろう?;
とにかく、このあと幸村は三成と楽しく過ごしたんだ!きっと。いろんな意味で!
つづきが気になる方は・・・・いないですよね(笑)