眩いばかりの光に目を奪われる。
見上げたのは、聖夜にふさわしく彩られた巨大なモミの木であった。
『メリーメリークリスマス・トゥ・ユー 2 』
「え? 」
天使だか、地縛霊だか、死神だか、なんだか分からないけれど、とにかく
綺麗な人だ。
その三成がちょっと厭味な顔をする。
「お前・・・手袋失くしたのか。しかも片方とか、ドンくさいな。」
「うっ・・そんなハッキリ言わないでください! 落ち込んでるんだから。」
頬を膨らませて抗議する幸村にはお構いなしだ。
三成は、幸村の少年らしく張りのある頬を遠慮なしに、人差し指で突いた。
「痛い、痛いですよ」
「ぷにぷにしてる。」
いたく気に入ったらしく何度もつっついてくる。
「こ、子供扱いしないでくださいって! 」
「どう見ても子供だ。」
「もう高校生です・・・・。」
幸村は、肩で息をついた。どうせ言っても無駄なのだ。
この短時間でよく分かった。三成は、とても強引だ。
「さぁ、行くぞ幸村! 」
「行くってどこへ?! 」
と、手を掴まれて走り出したのがついさっき。
三成は、握った幸村の手が凍えるほど冷たいのに気がついたらしく、
「手袋は? 」と首を傾げた。
そして、正直に失くしたと話せばこの仕打ちだ。
「仕方ない、手を繋いでやろう。」
「そそそそ・・・そんなっ」
美人と手を繋ぐなんて今までにない状況だ。
赤面する幸村に構わず三成は、いささか雑に手をつなぎなおしてくれた。
(それにしても・・・)
良い匂いです。
美人は、すべからく良い香りがするのだろうか。赤っぽい艶やかな髪が
歩くたびに冬の冷たい風にそよぐ。甘やかな香りが鼻孔をくすぐる。
「そっ、そうだ! そんなことより、三成さん行くってどこへ行くんですか? 」
「なに言ってる。決まっているだろうクリスマスと言えばツリーだ! クリスマスツリーを
見に行くぞっ」
「へー・・・・。それならたしか、」
「駅前だな。さあ、急ぐのだ。予定が詰まっているのだよ! 」
「予定って言われても・・・。クリスマスに二人で何をするのが良いのか、僕には
分からないですけど」
「大丈夫だ。」
きりっとした顔で言われても。
「いろいろ調べてきたらか。」
「三成さん・・・・」
クリスマスどんだけ楽しみたかったんだよ、この人。
* * * * * * *
かくして、
駅前の大広場に辿りついた二人である。
聖夜を祝うためだけに飾り付けられたのは、
樹齢50年はたっていそうな立派なモミの木であった。
赤や青、金や銀。色とりどりのオーナメントにも粉雪が優しく舞い降りる。
なかなかに幻想的な景色だ。
だが、幸村は落ちつきなく辺りを見まわした。
「三成さん、見事にまわりカップルばっかりですよ! 」
目に映るシルエットはどれもこれも寄り添う恋人たちである。
「幸村・・・・」
「は、はい? 」
「羨ましいのか。」
「え、いや・・・・・・そういうわけでは、」
ないとも言いきれないのが悲しいところ。
俯く少年に、三成は嘆息した。
「ふう・・仕方ない。じゃあ、カップルっぽいことをすればいいのではないか? 」
「ええ?! 僕たちがですか」
「うむ。」
どうしてそうなる?
「だって今日は、幸村にいろいろ教えてもらわないと、な? 」
「うー」
頬笑みに目眩がする。
「ど、どうすればよいのでしょうか・・・・」
艶然とほほ笑む三成。
「お好きなように? 」
「おふぇっ」
緊張しすぎてお腹が痛い。
その一方、三成はいたってマイペースだ。
「まずは〜、こうしてー」
「え? え? 」
何かを思い出しているのか、ちょっと上向いて首を傾げた。
そのまま幸村の手をとって、自分の両肩におく。
「見つめ合うんだろう? 」
「あの・・・!!! 」
「ん? 」
「違う? 」と、小首を傾げる。
「な、なにを」
「大丈夫だ。ちゃんと調べてきたから。」
「ま、またそれか・・。なにをお勉強してきたんですか? 」
「ふっ。『恋人たちのクリスマス★しちゅえーしょん200選!』という雑誌で、恋人っぽい行動は
全て予習済みなのだよ。」
「なんですかその雑誌! 」
自信満々でそんなこと言われても。
吐息がかかりそうなほど近くで見る三成の顔は、無邪気そのものだ。
「破廉恥ですよ! こんな往来で・・!」
「でも皆・・・ほら」
「うっ・・・たしかに」
カップルばかりの中ではそう目立たずに済みそうだ。
それに。
それに、こんな美味しい展開逃したら男がすたる・・・気がする!
幸村は意を決した。
「で、では・・・みつなりさん後悔しないでくださいねっ」
「んー? 」
(神様! お許しください!!)
薄く開いたままの形の良い唇に口づける。
思ったより柔らかい。そして、温かい。
とても整った顔立ちの三成は、冷たそうで、まるで良くできた氷細工のようだ。
だが、触れてみれば心の温もりをそのまま伝えるかのように、ほの温かいのだ。
「んっ 」
「はっ・・・・はぁ・・・・・! 死ぬかと思った!!! 」
勢い身を離すと、ばっちり三成と目があった。
大人の余裕か、三成はそんな幸村に優しく微笑んで一言。
「幸村、お前息止めてただろ? 」
「うわぁああああ・・・・不覚です!!!! 」
美人に言われるとショックも大きい。
聖夜に幸村は項垂れた。
頭上では、相変わらずクリスマスツリーが煌びやかな光を瞬かせている。
「これがキスか〜。ふうん。」
「み、三成さん? 」
「次は? 」
「え・・・・・・・・・」
「ゆきむら〜」
「え・・・ええええええ」
次を要求されても困ります。にやにや笑いながら三成は、また幸村のほっぺたを
突っつきだした。
「い、痛いですって」
「まあ、お子様にはこれくらいがちょうどいいか。」
「そんな〜」
「つづきは、来年、だな?」
にっと微笑む。
その姿は、魔性。
また来年もこの人に付き合わないといけないのか。
「うううう・・・・」
運が良いのか悪いのか。
そいつは、まだまだ分からない。
聖夜には、ご用心。
特別な日に溜息なんてついてると、貴方の元にも何かがややってくる・・・・かも?
END.