お犬様擬人化中! パラレル。


 

    『Oh my dear』




 いつだってあなたのために僕はいる。

 オーマイディア。

 どうかこの手を振り切らないで?


「みせてやりましょ〜やってやりましょ〜♪ 」

『くふぅん』
 黄耳はぴくりと、耳を上げてまた目を閉じた。

陸機の足音が近づいてくる。

「めそめそしない、くじけなーい。本気になったらすごいんだから☆ 」

なんの歌だ。

ともかくご機嫌らしい。

 ちょっと調子っぱずれなところがまた主人らしくて可愛い。

歌は心だ、と思っている節があるから。音程なんて気にしない。

(まあ、細かいとこ気にしないのはいいとこだよなー。)


 
黄耳は陸機さんの愛犬だ。

陸機は気付いているかどうか怪しいが、実は人語も解せる頭のいい犬
なのである。
もちろん話せないが、聞くことは出来る。

「黄耳〜今日はねお土産があるんだよ。これ〜♪ 」
陸機の綺麗な顔が間近に迫る。

いつもは鋭い眼光もこの時ばかりは和やかで、他人が見たら驚くこと間違いなしだ。

るんるんで取り出したのは木製のブラシ。

「露天商でちょっと怪しくて高かったんだけど。いいよね? 」

いやいやダメでしょ? と突っ込んでくれる雲はいない。

おいでおいで〜と黄耳を呼び寄せる。

さっそく胡坐をかくと、そこに黄耳の頭を乗せてトリーミングにかかった。


「どう? 気持ちいい」

艶のいい黒い毛を梳いてやる。

「あっ気持ちいいです。」

「そっかぁ〜 」

 にっこり頷いてスルーしかけたが、

「なっ は?!」

「はい? 」

喋った。犬が喋った!?
「なに? どうなって?!」 

否、人である。

陸機はすでに大パニックだ。

(なんて可愛い顔を・・・。)

「なっ どっ・・・え?! どうしよぅ」

ずしりと重い感覚。

うっそりと顔を上げた青年と目が合った。

「落ち着いて、テンパリすぎ。」

凛々しい顔立ちに、どこなく面影がある。が、じっくり見ることができない。

膝に見知らぬ全裸の男を乗せているという状況に陸機は赤面して目をそらした。

だいたい恥ずかしいを超えてこれは、怖い。

「あっあぁ〜・・・分かんない」

泣きそうだ。

いや、恐らく心の中ではもう泣いている。

「とにかく重い・・・・」

耳まで真赤にして言われるとさすがに黄耳も申し訳なくなってきた。

「スイマセン」


陸機が急いで用意した服を着ながら、黄耳は浅い溜息をついた。

(めちゃめちゃ警戒されてるな。)

じーっと見つめてくるくせに、人見知りの子供のように陸機はなかなか近づ
こうとしてこなかった。
そのくせ正坐でじーっと見守られるのは居心地が悪い。

「あの〜何もしないから、」

「わ、分かってるよ・・けど・・」

そう言いつつ目が泳いでいる。

「でも、どうして人間に? 」

「ああ、多分あのブラシのせいですよ。」

「そっか、そっか・・」

陸機は「すごいな」、と口の中で小さく呟いている。

仕方ない。黄耳は肩を竦めた。

「こっちきてください、士衡さま、ね? 」

「うっ」

語尾にハートマークをつけて、思いっきり優しく手招きしてやる。

凛々しい顔立ちが笑うと急に柔和になるものだから、ほだされる。

陸機はびくびくしながらも、意を決したらしい。


そろそろと近づいてくる。

「ホ、本当に黄耳なの? 大きいし」

恐る恐る近づく主人は可愛い。「おいで〜」と祈る心の中ではもう手ぐすね引く
アリ地獄気分だ。

「そうですよ。」

「すごい・・・」

陸機の表情に笑みが広がっていく。

「良かった・・」

受け入れてくれて。陸機の無邪気な喜びにほっとしていた。

「こうして士衡さまと話ができる日がくるなんて、」

「私も嬉しいよ、」

「士衡様・・・」

黄耳は陸機の背に腕をまわした。

こうして抱き締められるのがどんなに幸せなことか、きつくきつく抱きしめた。 



「えぇ」

どさっと買い物袋が床に落ちる。

「兄上!! 」

居間のドアを開けたら、兄が見知らぬ男と抱き合っているなんて。雲の脳は瞬時に男を
敵と見なした。

「う、雲・・? 」

どうしたの? と黄耳からちょっと身を離して、笑顔を繕う。

よほどショックだったらしく雲はよろめきつつ黄耳を指差す。その手が心なしか怒りに
震えていた。

「だっだれですか!!? このやろう」

「あの、これは黄耳で・・本当に・・・」

雲のあまりの剣幕に陸機の笑顔も引きつってしまっていた。



2時間後・・・
「本当ですか? 」

未だ雲は目の前の男に疑いの眼差しを向け続けいている。

「(お手とかしましょうか、犬ですから〜、ねえ)本当ですよ。」

にっこり。

「こ、こいつ・・・」

(私には分かる! こいつ絶対、腹グロい。 )

(あ、嫌われた。)

さほど気にした風もなく黄耳は肩を竦めた。

「・・・犬のくせに。」

ぼそっと言ってやる。

「そうですよ。士竜さんがいつも隠れておやつ食べてるのも、洗濯当番サボってるのも全部
 見てました。犬ですから。」

ちなみにこっちも小声である。

「なっ 」

それは兄上にチクられるとまずいのでは?

「なんだと・・・・・」

雲の反論はものすごーく弱かった。


「雲、今日は雲の当番だろ? ご飯〜」

キッチンからエプロン姿の機がひょいっと顔を出した。
二陸はただいま都で二人暮らし中なのだ。もちろん自炊している。

「う、雲は犬とは同席しませんからね! 」

「そんなこと、」

雲は知りません、と言わんばかりにつーんと上向いてしまった。

「だいたい魚拓目にろくな奴はいませんよっ」

「え」

魚拓目、それは真っ黒にして光のいっさいないというあの目のこと。

さぁ・・っという音を立てて陸機の顔から血の気が引いて行く。

「あ〜・・・そうかぁごめんね雲・・目に光がほしいな〜」

陸機さんはフライ返しを持ったまま眼頭を抑えた。
そう、彼は魚拓目だった。

「ちっちがうんですよ兄上!! 」

「あーあ。」

「私も手伝いますから、ね、兄上〜! 」

キッチンに引き上げていこうとしていた機の腰に飛びついて引き留める。

「あっこら! 」

「怒んないでくださいよ〜」

「もう、怒ってないよ重いって」

「はぁ〜。」
これはもう完全に忘れられている。

兄弟っていいな。なんて思う黄耳。

とにもかくにも、二陸のおうちに新たな同居人が加わった。

さてさて、これからどうなることやら・・。



お犬様、腹黒い。
これは漫画で描いていたのを字に直したんで、難しかったな。
なんて地味な作業なんだ!