『FUNKY IT!』
2、 ー 住ませろよ! ー
まるでノラ猫みたいなヤツだ。
「頼りにしないんじゃなかったのか、え、三成?」
人のうちの前で膝を抱えるノラ猫に聞いてみる。
ドアを睨んでいた彼はアパートの鉄柵を背に不服そうに「遅そいんだよ」と呟いた。
・ ・ ・ ・ ・
朝から、「ざーざー、ざーざー」うっとおしい。
秋の長雨は体に悪そうで、さすがに政宗も嘆息した。
ちょっとクセのついた鳶色の髪も湿ってしまっている。
両手には大学の帰りによったスーパーの袋。たっぷり2〜3日分のおかずの材料を
買い込んできた。
といっても一人分だから、狭い我が家にはお似合いの小型冷蔵庫にでも楽々入る。
ちなみに政宗の家は三畳の居間に四畳半の寝室・押入れつきの安アパートである。
それでも一応、トイレ風呂付なので、なかなか快適で気に入っている。
こう見えて、彼は料理のできる男だった。
というか、こつこつ一人で料理を作ったり、ひそかに自作の歌を歌っちゃたりするのが
趣味なのだ。
モテる要素たっぷりにも見えるが、今のところこの特技が恋愛に活かされたことはない。
要するに器用貧乏。
「今日は白菜が安かったな、さすがわし。ふんっ自分で言うほどに買い物上手だ」
カンカン、カン
足音高く、階段を上る。
「今日は鍋にしようかな、」
「・・・・・」
「は」
ざーざー、ざーざー 降りやまない雨がうっとうしい。
ぴくりと、ノラ猫が耳をたてる。
濡れた髪と、見上げてくる不機嫌そうな瞳。
「なにしてる、」
「遅いのだよ、政宗・・・。」
寒い。と勝手なことを言って彼はジャケットの上から腕をさすっている。
その隣には新品と思しき白いスポーツバック。
(まんま家出してきたみたいなかっこじゃな・・・こいつ)
彼はやってきた。唐突に。
まるで秋の長雨がもたらした洪水。
「わしには頼らないんじゃなかったのか、え、三成?」
―――はん、政宗のところ? いくわけあるまい。
そう言いきった三成が今更なんだというのだろう。
警戒心もあらわに低く尋ねれば、三成は「だって」と呟く。
「だって他に行くところがない」
「え」
(他に・・・他に行くところがないじゃと!? じゃあ、断れないな。 って、違うだろ
そんな馬鹿な!! 馬鹿はわしじゃ)
ダメージを受けたのは政宗の方。
「お、お前、・・・そ、そうじゃ兼続のところに世話になってるんじゃなかったのか」
「兼続は、・・・・まあいろいろあって。」
「真田は」
「幸村? あいつは下宿だ、間借りの間借りなんてできるか。」
ふんっと鼻を鳴らす。
なんて態度だ。
「だって、他にも」
「ともかく! 政宗のところに住みたい。お前は一人暮らしだと聞いたし、
『山犬なら、遠慮もいるまい』と兼続が言っていた。」
(なんでじゃ。)
「だいたいなぜわしのうちを知っておる?」
「兼、」
「馬鹿め! 」
あとで兼続は殺す。絶対に。
だが、今はそれより。
「寒い、政宗・・・」
「・・・・・・っ」
大きいノラ猫だ。拾っていいのか?
「政宗は、俺が凍死してもいいのか・・・はぁ、そうか、そこまで俺が嫌いだったのか
・・・ふうん」
「うぅ」
「雨が止まない・・・俺は行くところがないのだよ、政宗、」
じと〜っとした視線。
「わ、分かったからやめんか人を極悪人みたく言うでない! 仕方ない・・・、」
ポケットをまさぐって鍵を出すと急いで、ドアを開けた。
しおれた演技などどこへやら、ぴょこん、と立ちあがった三成を手で制す。
「待て! 」
「は?」
「5分、そこで待っておれ三成、・・・片付ける。」
「う〜、そんなのいいから早くうちに上げろ、」
「うるさい、いろいろあるんじゃこっちにも! 」
見られたくないものとか、片付けなければならない雑誌とか。
急にこられても困る。
彼女が急に、しかも勝手に「きちゃった、えへ♪」とか、ぬかしたら
男は「うぇえええ?! (なにしてくれてんだよっっ)」となるものなのだ。
「政宗ー、俺ならば気にしないから」
「黙って待っておれ、5分じゃ。」
「・・・・・もういい、早くな、できるだけ早く済ませてくれ。凍える。」
勝手なことを。
だが、三成はこれ以上、言い合いをするのも不毛だと思ったのか案外素直に引き下がった。
頭のいい猫で助かる。
凍えそうな青年を死なせないためにも、全力で政宗は部屋の片づけに取り掛かった。
to be contenued.
まだ続く・・・・。
もどる