『FUNKY IT!』


6、−もう遅い!−

「政宗、お茶」

三成は、呆然と立ち尽くす政宗に構いもせず、ずいっと、湯呑みを突き
つけてくる。

「・・・・・・・」
「政宗?」
「・・・・・・・」
「ん? まさむねー? まさむねー、」
「・・・・・・・」

あの石田三成が、
いつも高飛車で、同窓生であろうとなかろうと近寄る男など容赦なく
切り捨てる石田三成が。

憎らしい唇が、声もなく言葉をかたどる。
『背ェ、伸ばせ』
と、からかってくる嫌な奴が・・・・?

「政宗、・・・・死んだか。」
「なんでじゃ!」
「お、動いた。いきなりフリーズしたからてっきり」
「死なんじゃろ」

「そうか」とだけ言う三成の手には、まだ湯呑みが持たれている。

「な、なんじゃ三成・・・」
「お茶、」
「あ、ああ、」

うんうん、と頷くと政宗は機械的に湯呑みを受け取ってすぐそこの流しに向かった。
コンロに置かれた赤いヤカンから直接ティーポットにお湯をそそぐ。
すぐカップにそそぐがず、じっくり茶葉を蒸らすのが美味しいお茶を入れる秘訣だ。

とぽとぽとぽ・・・

ポットから注がれる緑茶が、小気味いい音を立てる。
薫る緑茶の爽やかな薫り。
うつむいた政宗は小さいく呟いた。

「って、なにしてるんじゃ? 」

まったく意味が分からない。

「あの、三成がうちに住む・・・?」

あまりのことに、つい素直にお茶をいれてしまったではないか。
背後では、三成がのんきにテレビをつけてくつろぎ始めていた。

こんっ
コタツの天板に客用の湯呑みが置かれる。
ついでに自分の分もお茶を入れた政宗は三成を見据えて座に就いた。

「ん。」

満足そうに三成は湯呑みを両の手の中におさめる。
どうやら「ん」が、三成の「ありがとう」らしい。
そのことは、突っ込まないでおく。

「三成、本当に同居する気なのか・・・」
「うん。」
「・・・・」
「俺は最初からそう言ってる。他に行くところがないから。と、言ったじゃないか。」
「いや、それは聞いたが」
「政宗は、俺を家にあげた。住んでいいってことだろう。」

なんという直結回路なのだろう。

「いや、だからそれは! お前が寒いと言うから、とりあえず上げてやっただけじゃ。
 ・・・わしは別に同居まで許したわけじゃない!」

言ってやった。
そうとも、可哀そうだと思っただけなのだ。

「ふうん?」
「なんじゃ」
「政宗は、俺に今すぐ出て行ってほしいと、そういうことか?」
「え」
「そうか・・・・・・・・はぁぁ、外は寒いんだろうな」
「あ、いや! そこまでは言っとらんじゃろ? な?」
「出て行く。政宗がそこまで言うなら、出ていく。」
「行くって、どこにじゃ? だって行くところないんじゃろ」

こくり、と三成は頷く。

「なくても・・・・ここにいられないなら、お前には関係ないだろう。」
「ゆき、真田のところに帰るのか」

だったらまだ安心なのだが。三成は悲しげに首を横に振った。

「幸村は下宿だ。よそ様にまで迷惑はかけられん、」
「じゃ、じゃあ! 直江か、」
「兼続のところには戻らん。3日も世話になったし、一度出て行った手前、
 戻るのは迷惑だろう・・・」
「それじゃあどこに行くんじゃぁ、お前は〜」

項垂れたのは政宗のほうだ。
三成にはいつも心乱されて迷惑だが、惚れた弱みである。
どんなに腹が立っても、悲しい思いも寒い思いもしてほしいとは思わないのだ。
男はバカな生き物で、好きな相手ならなんとかして助けてやりたくなるものなのだ。
それが愚かなことだと分かっていても。
絶対に見捨てることなどできない。

「政宗には関係ないだろ、追い出すんだから。」
「・・・・・ぐ、・・寝覚めが悪いんじゃお前がどこに行くか分からんと。」
「心配しなくても、この寒いのに野宿したりしない。」
「バカ」
ゆっくり三成は首をめぐらせた。
「昨日も、別になにもなかったし。ちょっと身体の節々が痛いだけで。」
「え」
身体の節々ってなに?
なにしたら痛くなるの?
よくわからない想像が頭の中を駆け巡る。

「でも最近は治安が悪いから気をつけないとな、寝てたら危ないのかもしれないなぁ」
「え、え」
「ああ、でもみんなやってることだし、大丈夫か」
「きぃさまぁあああああ!!! 昨日の夜はどこでなにしとったんじゃあ!」

娘の朝帰りに怒る母親の如き形相であった。

「は?」
「う、(落ちつけぇわし!) ごほん、とにかくどこにいたんじゃ。」
「言わなーい」
「なーいじゃない! 言えないようなところにいたのか」
「さぁ? 俺を追い出す政宗には知る必要もないんじゃないのか。たとえ俺が、
 どこの誰にお世話になろうと。」

「どうなんだ」と、責めるように強気の瞳が政宗を見返す。
一連のやりとりで疲弊しきった政宗は、また肩を落とした。
三成は折れるということをしない。
だから、こちらが攻めても無駄なのだ。
この横柄者が自分の意思を曲げて、へりくだることはないのだから。

「分かった、分かった。わしが悪かった。追い出さん。」
「ふぅん?」
「とりあえず、今日は、な!」
「ふぅん〜」

ほんの少しだけ三成は口の端を持ち上げた。

「で、昨日はどこにいたんじゃ。」
「ネットカフェ。」
「あ?」
「ナイトパックで1000円。ホテルより安いし、最近はネットカフェ難民とか流行ってるし。
 椅子で寝るのはちょっと身体が痛いけど、寒くはなかったぞ。」
「おい、誰にも世話になっとらんじゃないか」
「お店の人にお世話になりました。」

にっこり笑う。
負けた。完全に三成に振りまわされている。


後悔しても、もう遅い。
――急に静かだった昨日までが懐かしくなりました。


                                                                                    to be continued.....?


かなり間があいてしまいましたが・・・
この二人まだ同居してました(笑)
政宗さまの受難はまだ続くそうです。。。

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