※追悼記念。間に合ってませんが;今年は西軍勝利のハッピーエンドにしてみました。(捏造ですね;)


『その果てに』


「終わりましたな・・・・、」

「・・・・・・ああ。」


終わった。

晴れ渡る空に三成は呟いた。

―――これで、本当に終わったんですね。 これで、良かったんですよね。

(秀吉さま・・・・)


声には出さない。
清廉と称される人の唇がわずかにかたどった名を、左近だけが見逃さなかった。

「殿、」
「ん?」

振り向いた三成は、どこかいつもと違って見える。
毒気が抜けた、とでも言うのか。
だが、牙を失ったようでもある。

左近は急に声を励ました。
そうしなければ、このまま愛しい主がどこかへ消えてしまいそうな気がした。
まるで青い空に溶け込んでしまいそうに思えたのだ。

「なにを呆けていらっしゃる!」
「なに?」

いぶかる三成に、指さして見せる。

「ごらんなさい。」
「・・・・・」

戦場を見渡せる崖の上、はるか眼下に広がるのは平原。
折れた旗。
踏み荒らされた大地。
敵味方を問わず死んだ者は数知れない。

それでも、生きているものは立ち上がり、己の拳を握り蒼穹を見上げるのだ。


「みんな、帰っていくな。」
「そうですね。」

今日が来た。
新たな時代の息吹きを誰もが感じている。

「あなたの旗のもとにこれだけの兵が集まった。」
「そうだな、よくぞと言うところだ。」
「本当に大きな戦だった。」

全てが終わったのだ。

挙兵した石田三成に呼応して関ヶ原には数多くの将が集まった。
対する徳川家康の布陣もさすがに油断ならないものであった。
まさに日の本を二分する天下分け目の戦い。

とうとう石田軍はそれに勝ったのだ。
戦は終わった。
秀吉亡き後、三成は頑ななほどに家康と敵対してきた。

「義戦」を重んじる三成。それは全て秀頼様を奉じるため、その一心であると近臣たちは
疑わなかった。

しかし、徳川方では、いや仲間となるべきものたちの中にも、三成を疑う者は少なくな
かった。
もし、家康に勝ったなら三成はどうするのか。
当然、幼い秀頼の摂政を気取って、政界を牛耳るに他ならないのだと。

だが、左近には何となく分かっていた。
どれも違う。


――― この人はただ、約束を守っているだけにすぎない。

太閤が秀頼を頼むと言われた。
だから、守るのだ。
皆が笑って暮らせる世を、と願われた。だから戦うのだ。

今、三成は自分に残された仕事を全て片付けた気分だろう。
全てが終わったら、政治の中心に返り咲こうなどとは考えていないはずだ。

「殿は案外、先の見通しが暗いですからな。」
「なんだ、急に?」
「周りが言うように、先のことなど考えていなかったでんしょう? あなたは、そういう人だ。
 いっそ潔く退くつもりですかい? 」
「左近・・・・」

三成は苦笑する。

「太閤になんと報告されていたんです?」
「うん、・・・まぁ、な。」

青い空の下、三成は瞳を閉じた。

「俺は、俺のなすべきことをしただろうか、」
「存分に。」
「そうか。」


―――― 約束は果たしましたよ。 やっと、やっと果たせました。


もうこのような大きな戦はこないだろう。
自分の役目は終わったのだと思う。全てを捨てるつもり、というほどのものではないが、
しばらく休むのも悪くない。
それで、少し離れた所からこの国を、秀頼さまを見守れたらそれで、いいのではないか。

「さて、殿、これからどうしましょうかね。」
「は? 俺は」
「静養している暇はないですよ。これからが大変だ。殿、戦は事後処理も必要なことを
 お忘れか?」
「分かってる・・・・が、少しくらい休ませろ、左近の阿呆。」

唇を尖らせながらも左近の言うことは正論だ。
だが、三成はさらに頬を膨らませた。

「そんなものは他の奴に任せてもいいのだ。どうせ俺は大将ではないし、初めから、勝った
 後のことは毛利殿に任せると決めている。それに褒賞やら領地のことは各々でやってもらいたい。
 俺がやったのでは前と変わらぬし、角も立つ。」

「ほほう、」

「な、なんだその顔は・・・・にやつきおって」
「いやいや、殿の口からそのような殊勝なお言葉が出るとは・・左近も長生きした甲斐がありま
 したよん。」
「む、バカにしているな!」
「してはいませんが、バカですな。」
「はぁ?! お前、とうとう面と向かって・・・・・くっ・・何が馬鹿なのだ!」

相変わらず三成は純粋だと左近は思う。
良かった。この人が変わらずにいて。

「だんだんいつもの調子に戻ってきましたね、殿、殿はまだまだ必要なお人だ。新しい時代には
 自分の居場所がないとでも?」
「そうではないが、・・・」
「殿、隠居には早すぎるんじゃありませんかね。」
「左近、」

左近がほほ笑んだのと、元気のいい声があがったのはちょうど同じ時だった。

『三成殿〜!』
『三成ぃぃい〜!!』

「ほうら、うるさいのが駆けつけてきましたよ。」
「まったく・・・本当にうるさい」

友が三成に抱きつくのはほんの数秒後のこと。
左近は苦笑する主の薄い肩を叩いた。

「一緒に歩いて行きましょよ、殿。まだまだこの国にはやることだらけだ! 」

「ああ、」



―――― 約束は果たしましたよ。だから今度は、


「自分の道を歩きます。」


END.



そして、どこココ? みたいな話。が、崖の上で会話してたらいいなって。
自分の文章力のなさが残念すぎます! もう少し直したい・・・(>_<)

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