※もう相変わらず暗いです。これは精神的にアレなんだな。
『HEARTLESS』
つまらない愛に踊らされて、なにかを見失うのはいやだから。
だから俺は冷たい。
あなたは何も見えていないと言った。
俺はなにも見たくなかった。
明日が来るから悩むなら今日だけでいい
明日が来ないのが怖いなら今だけにして
愛してくれなくていい。
愛さないから。
「淋しいなら一緒にいてあげる」
「いらない。」
気を使われるのは嫌いだ。三成は伸ばされた手を払う。
「なんだよ、そういうときは甘えるもんだろ? 」
だけど無神経なのはもっと腹が立つ。適当にしておいてくれ。そうとしか思えない
自分は余程冷たいのだろう。
冴えない頭でそんなことを考える。なんだか、今日はいつにもまして頭が痛い。
味がある、とは言えないくすんだ色の天井。暖色の間接照明でごまかされている気がする。
飾り物の燭台に灯はともらない。テーブルに並んだ皿に辟易とする。
カモだろう鶏肉のソテーに濃い色のソースが毒々しい。
とてもではないが食が進まない。
(B級・・・)
この男も。
この店も。
三成は機械的にナイフとフォークを動かす。
ちょっと伏し目がちに肉と格闘する男。容姿も体形も悪くはないが、ブルーブラック
のスーツも半端に高級な腕時計もなんとなくパッとしない。
(くるんじゃなかったな。)
こんな男に付き合うほど暇じゃない。
「ねえ、食べないの? 」
「・・・食べるけど」
「小食なんだ? 」
「今日はあんまり食べる気になれないだけです、」
しつこいのは苦手。
「お酒、飲める? 」
「あんまり好きじゃないから・・・」
「そう、」
ぼそぼそと喋る三成に男は不満そうに相槌を打つ。
仲介されたからきたものの、三成はすでにここにいることを後悔していた。
彼は何人かの上客以外の男をほとんど相手にしない。
相当いい条件で回してくれない限り、会う気にもなれないのだ。
(頭、痛い・・・)
昨日は島左近に文字通りフルコースに付き合わされて、――。
そこからが問題なのだ。
なんとなく思い出したくないような。思い出さなくてはいけないような。
(ぅああ、もう! なんなんだ、おれはなにをした?!)
だけど醜態をさらしたことだけは確か。放っておいていいものだろうか。
よく思い出せないのが幸か不幸か三成自身にも判断しかねた。
* * * *
「それで、三成はどういう男が好みなの? 」
「お金持ち。」
「ふうん。お金持ちかー、じゃあやっぱりこの仕事も、お金が目的? 」
「・・・さあ。」
「口数少ないね、もしかしてつまんない? 」
「いや、別にそんなこと」
「ないけど」、の言葉さえ次がせない。
「もしかして緊張してるとか、 」
「・・・・」
ああ、めんどくさいなぁ。ちょっと黙って欲しい。
男の軽口が三成の米噛みを刺激する。
(っぁああああああー頭痛いって言ってんだろっ )
言ってはいないが。 我慢の限界だった。
だんっーーー
盛大に溜息をつくと、三成はテーブルを叩かん勢いで立ち上がった。
「は・・・? 」
突然の仁王立ちに男は目を丸くしている。
一瞬ぽかんと口を半開きにしたものの、すぐに他の客の目を気にして小声で三成を宥めよう
と手を伸ばす。
「なに、三成? どうしたの? 」
「帰る」
「え」
たった一言。
くだらない。
情けない男に一瞥くれてやると三成は不遜に鼻を鳴らした。
「もう今日は帰るから。文句なら仲介者に言ってください。お食事に誘ってくれて
ありがとうございました。二度と会うこともないと思いますけど、楽しかったです」
後半は完全に心ががこもっていない。
どころか、途中で口でも挟もうものなら、切り捨てられそうな妙な迫力があった。
「じゃ。」
三成はおざなりに頭を下げて歩きだす。
「あ、あり得ないだろ! 待てって、」
慌てて喚くがもう、遅い。
引き留める間もなく三成はさっさと行ってしまった。
「・・・・どうすんだよ、これ? 」
残されたのは店の伝票だけ。
世間の目が痛い。
大声を上げるわけにもいかず、男は力なく椅子にへたりこんだ。
* * * * * * * *
pilululll....
「もしもし、」
『お、三成ー? どうしたんだよ早えじゃんか。』
陽気な声音に三成は少しだけ眉間の皺を緩めた。
店を出て、高級そうな店のショウウィンドウが並ぶ表街道をひとり歩いているところだ。
まだ夜更けではないものの、夜だというのに雲の影の方が闇よりも濃い。
曇天というほどでもないのに泣き雨でも降りそうに思えた。
「孫市、」
電話の相手は厄介事をつくってくれた仲介者だ。
『この時間じゃまだ客と一緒だろ、なんだ俺に会いたくなったか〜 』
「その客だけど、・・多分、後で苦情くると思うから。」
『は? 』
今度は何したんだよーと仲介者が情けなく溜息をつく。
『はぁーーーっ?! 途中で帰った? なんで』
「耳が痛い孫市。」
三成は携帯片手に顔を顰めた。
『あのなあ、なに? なにが気に入らなかったんだよ』
「全てだ。なんだあの男は胡散臭い。」
『胡散臭いって・・・』
「そもそも俺に紹介するような客かあれが。どこの馬鹿だ、金さえあればいいと思って腹が立つ。
ああいうのは好かない、」
自分の気性の激しさを棚に上げ、三成の人物評は続く。
「おい聞いてるのか孫市ぃ! 」
『う、うん聞いてるけどよーそれ、怒られるの俺だろフツーに。』
「ああ・・・よろしく。」
『あのなあ、頼むよ三成〜』
「なにを? 」
すっとぼけてみせるあたり、彼も素人ではない。
『今から店、戻って? 』
「やだ。」
『まったく気まぐれな姫さまだな』
「つまんなかったから。」
『つまんないから帰るってなあ・・・お前、今日機嫌悪くね? 』
普段から陽気な青年ではないが、どういうわけか今日は虫の居所が悪いらしい。
「そんなことより、他の客紹介してくれ。今、あいてる人は? 」
『今から、か? 』
「今から。」
ちょっと待ってろ、という孫市は手帳を開いているのだろう。
三成は腕時計を見つめた。 ――まだ8時過ぎ。
一人で電車で帰るのなんて嫌だった。
それこそ、つまらないから。
急に開いたスケジュールを誰か埋めて。
真っ白はダメだ。
ねえ、どうしたら・・・・
どうしたらやめられるんだろう。こんな虚しいだけの遊びを。
to be continued...
幸せになってくれ〜三成さん。
左近出てこないじゃないか! 誰なんだ。
モブなんだ。モブ絡み・・か。
タイトル『HEARTLESS』はまんま冷酷って意味です。