『改名しようよ!』
“石田三成 対 徳川家康”
「うわーこれ絶対、字画だわ〜」
「殿なにやってるんですか? 」
ひょいっと手元を覗きこんで左近は片眉を器用にはね上げた。
当の 三成はというと白い眉間に皺を寄せて畳の上をごろごろ
転がっている。
残念ながらその姿は深刻さからは程遠い。
そんなことはお構いなしに、三成は半紙に何やら書きたくっ
てうんうん唸っているばかり。「『石田三成 対 徳川』って、」
「字面からして文弱って言われたんだぜ? どっちかって言う
と理数系なのに。まぁさ〜官僚だけどさ」「ぜ、ってキャラ違いますから。でも確かにひ弱って言うか・・」
「やっぱり」
「どことなく線の細い感じはしますよね」
「漢字だけに? 」
「ちょっと真面目に言って損しましたよ! 」
左近の言葉に三成は頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。
「だって」
「だいたいなんでそんなこと言いだしたんです? 」
「それがな」と三成が言うには、とある占い師が原因なのだという。
「高名な占い師だと言うし、ついでに占ってもらったのだが。うう
む改名を勧められてしまったのだ! 当然俺は断ったが・・・」「そうですなぁ改名ですか〜、まあこのご時世、武士ならそう珍し
くもないですよ。よし! いっちょやってみましょうか! 」
と、言ったはいいが。
「なんであんたらまでここにいるんですか?」
当然の如く膝を詰め合わせているのは、お友達。こと兼継と幸村である。
ちゃっかりお茶まで啜っている。「三成の大事とあらば我らが駆け付けるのは当然であろう、」
「その通りです!」
「大事ってほどのことでもないような、てか住んでますよね?
ここに住んじゃってるでしょあんたら」「気にするな左近」
気になるし、気にしない貴方の神経がきになります・・・。
「まあ、言っても始まりませんか」半ば自棄気味に筆をとった左近の横顔に三成の視線が集中する。
「ちょっと強そうなのがいい。やっぱ画数が足りないんだと思うが」
「と、言うと・・・こんなんとか」
――-石田 四成
「足すってそっちか」
「・・・・おま」
「すいません殿! ぷくっふふ・・・もっと足しましょ」
さらさらと半紙の上を筆が滑って行く。
――― 石田 十三 (いしだじゅうぞう)
「誰だよ!!」
「四十郎とかもありだと思いますけどね 」
「石田四十郎って、左近・・・頼む真面目にやってくれ。」
「では三成、兼継から一字取って、兼三とかどうだ? 」
「お前にしてはまともで突っ込む気にもなれん! しかもそ
こはかとなく嫌な感じがするのは何故だ?!」「あ、でしたら私も幸村から一字取って、幸三など」
(はっ・・・! それってお前 )
「何が嫌ってなぜ俺が下なのだ! なんだったら三幸とか三兼に
しておけ」「殿、名前に下とか上とかないですよ〜。でも一応、俺の一押しは
左近から一字取ってさこみ」「耳障りなのだよぉおお!」
ばきめきゃっっ
なる不穏な音をたてて左近の頬に右の拳がクリーンヒットした。
「っうう・・ひどいですよ殿・・、」
「しかしこれは名前と言うより、姓が問題なのではないか三成? 」
「成るほど、どういうのがお好きなんです殿? 」
「お好きとか言うな」
ともあれ強そうな名前か。思案して三成はすぐに手を打った。
「藤堂高虎、本多忠勝、柴田勝家・・たくさんいるな。だがやっぱり
みな画数が多いぞ? 」「なるほど島左近、と」
「勝手につけたすなっ」
――― 島 三成
「誰? 誰すぎる」
「あれ? 案外しっくりきませんでしたねぇおかしいなー」
首を捻る左近から筆を取り上げると、
「むう、直江三成とか真田三成なんて強そうじゃないか? 」
夢中で友の名を書いて行く三成に、左近は眉を八の字にした。
「殿ぉおお! 左近以外の男の姓を名乗るなど」
「うるさっ耳元で大声を上げるな」
「嫁になんか行かせませんからね!!!」
聞いちゃいない。
「馬鹿か、なったとしても養子であろう」
左近を一蹴して三成は筆を執る。
「三成、私はいつでも歓迎するぞ! 」
「ああ、直江家の養子ならいい暮らしができそうな気もするな米所だし。」
「三成殿、真田は? 真田はどうです? 」
「ん、幸村の兄になるのか? それも一興かも知れんな。」
まあ、養子になるつもりはないから。と、悪戯に筆を動かす。
「藤堂三成・・・心なしか強そうだな」
「そんなに強そうな名がいいなら、もう権田源三郎とかでいいですよ」
「・・・・お前、ひどいな」
同姓同名の人に謝れよ?
不貞腐れる左近はあっさり無視された。
――-藤堂 十三
「いや、じゅうぞー嫌だって。」
「殿こそ! いやに高虎殿がお気に入りですね」
「高虎じゃない、藤堂が気に入ってるんだ。」
「そうだぞ三成! やはり直江姓を名乗るのが一番っ!
友情を超えて親族になるのだ。これこそ義だな☆ 」「義、なのか? 」
「僭越ながら武と言えば真田、方々に劣っているとは思えま
せん・・三成殿が真田家に嫁いでいただけたら・・わっ私は」「いや嫁がないぞ? っていうかもういいや。」
『え??? 』
三成は面倒臭そうに髪をかき上げる。
「そう、三成はまだいいが石田姓を捨てることはできないのだよ。
ご先祖様に申し訳が立たない。父や兄もさぞがっかりすること
だろうし。うん、そういことだから」言いきってあっさり三成は手のひらを返してしまった。
「えぇぇぇ〜!!? 」
あんたが言ったんじゃないか!!! と、思っているのは左近だけ。
「それもそうですね、」「さすが三成、先祖は大事にせねばな」
「ああ」
「なんだよあんたら・・・」思い出したように左近を振り返って三成が手を挙げる。
「あ、お疲れ」
「殿〜」
今日も今日とてのんびりな彼ら。はたして明るい明日は来るのか?
なんだよ。長いよ。
短くてどうでもいい話を書きたかったんだよ。(だからなんだ;
「石田三成」は線が弱いということで。武士っぽい名前ではないですよね?
名は体を表すのかしら??
こんなんじゃ東軍に勝てないよぉ〜