※史実モード。傾きだした晋から「離れよう」と誘う顧玄先ですが・・・。(玄先は機と同郷。)
※続くかも。
『綺麗な人』
だから、これはハナムケ。
「さようなら陸機・・・」
君は何も言わない。射るような強い瞳が一瞬悲しそうに揺れた。それだけでもう十分。
「顧彦先、私は」
「いいよ。君はここに残るんだろう、逃げ出す私たちを臆病者だと思うかい?」
静かな問いに陸機は大きく首を振っていた。
「別に、あてつけで言ってるつもりはないんだよ」「違うんだ彦先、私は、ただ・・・今はまだ帰ることができないだけで」
帰れない。故郷である呉には。
陸機の今の地位を考えればその決断は当然だった。
国が乱れている今、亡国呉の士はすでに半ば郷里に引き揚げ始めていた。
顧彦先自身も沈みそうな船から逃げ出すことが背徳だとは思えなかった。
それでも、「私は行かない。」
彼はそう言ったのだ。何人の友があなたを待っているのか。
「この国はもう、傾きだしている。君にだってどうにもできないさ陸機、一緒に帰ろう」
帰ろうよ、
愛した国だろう?
「しかし、乗り掛かった船だ。途中で投げ出すことはできないよ。」「なにを馬鹿な、だって晋は、もとはと言えば呉の仇敵じゃないか!」
君が命を懸けるに値するものなのか?
「頴様か?」
年若い成都王は陸兄弟の命の恩人でもある。
今までが君主に恵まれなかっただけに、陸機はその聡明さと謙虚さに賭けている節が
あった。
ただ、彦先には成都王が陸機の期待に添える男とは思えなかった。
「陸機、頴様に義理立てする必要はないんじゃないのかい。だってあのひとだって
君の名声を欲しがって君のことなんて本当に考えているのか分からないじゃないか。」「さあどうだろうね、」
彦先や、多くの同志が呉へ帰えることを勧める中、陸機は一人頑なでさえあった。
「君は、」綺麗だね。
ずっと、ずっとそうやって綺麗なままで生きていくんだね。
「弟たちはどうするんだい?」「・・・そうだな、」
どうしようか、と無邪気に笑う友に彦先は目眩がした。「陸機ィ〜」
困ったように笑うその顔を気心の知れた友にしか見せないことを知っている。何故か安堵していた。
―――― つづくらしいよ。―――――
キングオブ普通の人・顧玄先、登場です(笑)
実はこの人、陸機さんのお姉さんの夫なんですよね。
顧兄弟と陸兄弟は手紙やら詩をやりとりしていて仲が良かったようです。
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