※ ちょいシリアス。 パラレルですよ。


 
 

        『コトバハムリョク』


 どうして伝わらないのだろう。

黄耳は力なく項垂れた。
愛する人は頑なで、脆い。
今にも壊れてしまいそうなのに、必死で堪えているのだ。
それを知っていてなぜ言ってしまったのだろう。


 ―――もう少し、笑ったらいいじゃないですか


なんのことはない言葉。それでも傷つけた。この人のプライドを、信念を、堪えている
その想いを・・・。

「笑ってる、だろ?」

そう言った時の顔が忘れられない。

同僚には可愛げがないと陰口を叩かれ、政敵には高飛車だと罵られる。
真っ直ぐすぎることは時に不器用で、ひどく危ない。
己を偽ることを知らぬこの人は、どうしても信念を曲げられない。


「わたしに、わたしに、お前は媚びへつらえと言うのか! そんなに膝を折らせたいのか!」
あいつらと同じように・・・呟きか叫びか、声はむなしく消えていった。
失望した瞳が涙を流さないことがさらに痛かった。


「違います! 私はあなたに楽になってほしいだけです、士衡さまどうして、どうして分かって
 くれないんです? 」

「分からない! 分かりたくない! 」

陸機の燃えるような瞳に背筋が震えた。

拒む、全てを・・・。
愛してやまない人が、今自分に抱いているのは懐疑心と、敵意。
伸ばそうとした手が震えた。

遠い。

優しく聡明だった主は、今や不用意な発言のせいで黄耳の全てを許さぬ存在と化してしまった
のだ。己の失態だ。
だが、これほどまでに拒絶する陸機を憎く思わなかったわけではない。

「なぜなんです士衡さま」

黄耳の声音にほんの少しの苛立ちを感じ取ったのか、陸機は更に態度を硬化した。
獣の如く警戒心をむき出しにする。


「うるさい! お前、私に指図するつもりなのか! 」


許せない
許せない

お前の裏切りを許せない


自身を燃やし尽くしてしまいそうな苛烈な炎、それは激情か狂気か。
もはや陸機にさえ溢れ出した感情を止めることはできなくなっていた。


「士衡さま・・・」
宥めることもできない無力な己。

「もういい、聞きたくない、もう放っておいてくれ」
聞きたくない、と陸機は繰り返した。

壊れてしまいそうな愛する人。壊してしまったのは自分なのか。
届くことのない手を見つめ、きつく指を握りこんだ。爪
が食い込もうが、血を流そうが、それはどうでもいいことだった。痛みさえ、救い。
だが、痛みは償いになってくれそうになかった。
黄耳は苦く吐き捨てた。


「わからないんですね貴方には、私の気持ちなんて・・・」


知ろうともしない癖に。いつだって傍にあって、意に沿った答えしか持たない。
そう思っているんでしょう? 
そう思われていたかったんだ、ずっと。貴方だけの味方でいたかったんだ。

「黄耳・・・?」

「どうして伝わらないんですか! だったら言葉なんて話せなければよかった。」
抱きしめることさえ許されないなら、この手もこの身の全てが無意味だ。
睨みつけるようにした床が何故かぼやけて滲んだ。


「人間になんか、ならなきゃよかったんですね・・・」


だから、驚いたような、悲しんでいるようなあの人の顔を見ないですんだ。


「い、・・・」

―――行かないで


それさえも素直に言えない。そんなあなたを愛したけど、愛しているけど、今は・・・


「行かないで黄耳・・・!」


―――
今は聞こえないんです。

 
言葉は無力、いつだって、あなたの笑顔だけが全て。
伝わらぬ思いなら口にせずに消えて行け・・・。                     

                            

                               −fin―


なんて不義(笑;
月9ドラマの始まりですよ!