※ マザコンな鐘会と、病んでる姜維しかいません! 


   愛してるとは認められない姜維と、
   愛が歪んでしまっている鐘会。
   望むように愛せず、望むように愛されない二人。
   
   上手く愛し方が分からない二人。お互いに絡み合って地獄に落ちていく・・・。





『マザーコンプレックス』




貴方は愛せない。
私を愛せない。


ただ、庇護を求める子供のようだ。


分かっていて姜維は頬笑みを彼のために浮かべてやった。

それが残酷な裏切りの始まりだとしても。
今は許してやろう。
非情な自分も、愚かな彼も。

すべては、必定なのだから。


姜維との仲がうち解けるにつれて、鐘会は事あるごとに彼の元を訪れるようになっていた。
形式上、留め置かれているのだから軟禁ということになる。
しかし、実際には拘束はなく姜維にはほとんどの自由が与えられているようなものだった。
それでも、自由に出歩けない以上なにをするのにも鐘会からの許可がいる。

「今日はどうされたのですか、」

この頃、「今日はこんなことがあった」とか「都はこうだ」とか、鐘会は取りとめのないことから
重要なことまで、いろいろと姜維に語って聞かせていた。

「ああ、どうもこうもない! 」
「鐘会殿・・・? 」

何をするにもこの男の許可がいる。
とはいえ、本当に支配されているのはどちらだろう?
ふと、そんなことが頭をよぎる。


「母上、」
「え?」

聞き間違いかと思ったが、あえて姜維は問い返すのをやめた。

ただの子供。

鐘会は姜維にすがるようにしがみついてきた。
その勢いで姜維のつける胴に、したたか額を打ち付けたのではないかと思われるほどだ。
一方で、姜維も己の腹にその衝撃を感じていた。
鐘が響くように、いく重にも広がる衝撃が臓腑を揺らす。


「どうしたらいい、伯約? 」

打ちのめされたことなどない優秀な彼。
泥にも血にも塗れたことのない鐘会は、ある種、うたれ弱い。

些細なミスにも神経をとがらせる。
特に、高すぎる自尊心からくる嫉妬心は抑えようもない。

「なにを恐れることがあるのですか、鐘会殿。」

必死にしがみついてくる鐘会は、まるで童のようで愛おしくさえある。姜維は、頬笑みを深めた。
そっと柔らかな髪を撫でてやる。
少し癖のある髪が指に絡みついてきた。

「恐れる? この私が・・ありえん。」

ぱっと、顔を上げた鐘会に「そうでしょうとも」と頷いてやる。

「だが、ケ艾の奴め・・・・晋公はなぜあんな男を執り立てているのか」
「そうですね」

貴族意識の高い鐘会にとって、野育ち同然のケ艾が自分を差し置いて出世していくことなど、
許されざることであった。

きっと今日も、そんなことで悩んで怒っているのだろう。

「あなたには、私がついています。鐘会殿こそ選ばれしお方。ケ艾のことなど捨て置けば
  良いのでは?」
「そうはいかない! 」

そうでしょうね。
内心、姜維は溜飲を下げていた。
終止、聞き役に徹しつつも巧みに鐘会の心を刺激する。
そして、ついには戦乱へと招く・・・。

驚くことにそれは、さほど難しい作業ではなかった。
演じることは楽だ。
彼にも自分にも甘い言葉を吐くことができるから。いつからか、姜維は自分さえ甘い罠に
はまっていることに気が付いていた。

人はこれを非難するだろうか。


「そういうものですか。」
「・・・だから、どうしたらいい? 伯約、わたしはどうしたらいいと思う? 」
「あなたの思うようになさればいい。心のままにね。」
「そ、それは・・・そうだが」

姜維は、目を細めた。
かつては戦場を見渡していた澄んだ鳶色の瞳が、今はまた違う場所を遠く見つめている。

「そのために私がいるのでしょう? 」
「なに?」
「今は仕えるべき主も、国もない私・・・。それでも生きながらえているのは、一重に命の
 恩人であるあなたのお役に立つためです。」
「・・・・あぁ、そうか。そうだったな」

降将である姜維を始めとする蜀将は、鐘会の庇護のもと厚遇を受けている。
魏兵が疑念を抱くほどに、鐘会は姜維たちに優しかった。
もともと彼は、自分の徳の高さを示すためにするパフォーマンスが嫌いではないのだろう。


「どうすべきか、決めるのはあなたです。でも・・・私がついていてあげましょう。
 事を起こすのなら、必ずお役に立ちます。」

「わかった。それはまた考える・・・。伯約、わたしを見捨てないだろう? 」
「ええ、もちろん。」

「ああ、母上・・・・・」

母上、母上、と鐘会は呟く。
相変わらず額を痛いほど姜維の胴にすりつけている。
そのせいか、彼の言葉は鬱陶しいほど姜維の腹に響く。

最近、姜維には突然、醒めたように空しい気分になることがあった。

そういう時は決まって、鐘会がこうしてまとわりついてくる時だった。


無防備な顔を見せないでほしい。
早く壊してしまいたくなるから。

残虐な心を駆り立てるのは、複雑な心。愛おしいと思うことは許されない。だが、恐ろしい。
なにかに責められているようで。つい、壊したくなる。


「ああ、」

ようやく分かったのは、鐘会が姜維に母を重ねて見ているということだ。
自分を理解し、導いてくれる存在を彼は欲しつづけている。
そして姜維はまさにうってつけの母の代理であった。


「伯約、」
「私が守ってあげますよ、鐘会殿。」

母親のようにね。
優しく優しく守ってあげる。



――――― 最後にはあなたを殺すけれど・・・・。







鐘姜のつもりが、読み返すした姜鐘っぽいですね;
精神的には姜鐘で、フィジカルは鐘姜なんなよ、きっと(笑)
次はブラックじゃない姜維を書きたいです(^u^;)
    
 
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