※妾陸機さんと従者黄耳。パロディーだと思って見てほしい・・。




『せめてその名を』




――――手を伸ばすのに、いつもあなたは行ってしまう。

   ねえ、だからせめてその名を聞かせて・・・・



「あなたは犬だ。」

そう言われた陸機は、一瞬意味を理解しかねたようだ。

「なにを・・・?」

「飼われているだけの犬、ですよ。分からないのか?」

 嘲る声が陸機には遠い。

「妾、と言ったほうがいいのかな?」

「私は・・・」

答えを失くした唇がわななく。

そう。華やかに着飾らされ、申し分ない生活を保障されても・・・


  ―――これでは囲われているのと同じだ。


「私が・・・・犬?」

 首輪に繋がれた、ただの犬。愛されもせず、ただ飼われているだけの犬なのか。


「陸機様!なにをしているんですか・・・!」

 従者の悲痛な叫びに、振り返った機は首を傾げた。

「さあ、自分でもよく分からないんだ」

ここから逃げ出したいのか

消えてしまいたいのか

 出窓の手すりに上った彼は今にもそこから飛び降りてしまいそうに儚かった。


「ただ、・・」


――――自由になりたい、空を飛びたい 

            そう思っても、籠の鳥の私には


「なにもできないのだから」

 夕日が彼の頬を朱色に染めていく。

「おやめください! どうかそのまま動かずにじっとしていて、」

 近づこうとする従者を制して陸機は言う、

「ねえ」
 甘くかすれた声が人の足を止める。なぜこれ以上近づくことができないのか。
 止めることができない。

 そして彼はひどく息苦しそうにして笑った。

「陸機様!」

「せいぜい後悔してくれ」
 下から吹き上げる風が、彼の黒い髪を嬲る。

 

―――いつも同じ夢を見る。
   手を伸ばすのに、あなたはいつもこの手をすり抜けて、逝ってしまう。

 



「陸機様っ!!」

視界から消えた陸機を追って、窓から身を乗り出す。

「うっあ・・・」

 間一髪、従者は主人の細い手を掴んだ。

「黄耳・・・ふ、う」

もうこの手を放さないから。

だから、

「泣かないでください」

                               

                                      ―了―



悲しいときには犬がいますよ。って話。
とある映画からインスパイア。生きることにちょっと疲れたレディーが
ベランダの手すりに乗り上げて、「空を飛びたい」と願う。
彼女は泣いて思いとどまるんですけど。誰か止めてくれる人がいた方が
幸せかなって☆