※まだ続いてます。三成鬱。シリアス。
『paradiseless』
おどけたピエロがこっちを見てるよ
ナイトパレードはもう終わり
なぜ寂しいの?
手を引かれて帰る子供たち。
そう、悟ったんだあの時。
――――――俺は取り残されていくピエロの方・・・・・
さよなら夢幻の時
この手を引く人はいなにのだから
さよなら悲しい人《ピエロ》
俺は寂しくなんてないんだから
* * * * * *
覚めて知る。
それは夢なんかじゃないと。
「・・・・・・最悪、だな。」
なにしてるんだろう。
いや、正確には過去のことだから『なんてことしたんだろう』だ。
こんなときでも、左近が聡明と称した三成の頭は少しも冷静さを欠かない。
そういうところが、自分でも嫌いだ。
お祭り騒ぎに興じることも、自分をかなぐりすてることも、この性が許さない。
(無様、だな。思い出さない方が良かったのか?)
いや、とゆるく首を振る。
三成は今、昨夜の記憶を取り戻しつつあった。
自分でもなぜあんなに乱れたのか分からない。
前後不覚になるまで飲み続けた。それも一人ではない。あの男がいる前で
泣いたのではないか?
ゾッとする。
人前で泣いたことなど生まれてからほとんど、記憶にない。
きっと、さすがに左近も喚きながら飲み続ける三成には手を焼いただろう。
はっきりと覚えているのはメニューの取り合いをしたことと、酒のせいか深く眠ったことだけ。
あとはうろ覚えだ。
それでも、どんなに恥ずかしくとも、記憶がないよりはマシだと思えた。
とんでもないことをしたんじゃないか、と不安に苛まれ続けるくらいなら、どんな事実でも知って
いる方が楽だ。
とはいえ、
(次に逢うとき、どんな顔してたらいいんだろう・・・・。謝った方がいいのかな、)
会っていないときには客のことを考えない。
それが三成の信条だ。
だけれど、今回は特例。
嫌なら会わなきゃいいとも思うのだけど。
「はぁぁぁ〜・・・俺としたことが悪循環だな」
「あん? さっきから何を一人でブツブツ言っておる三成? 」
三成を横目にラーメンをすすりながら青年は「気持ちの悪い」と悪態をつく。
くせのある茶髪。精悍な顔立ち。
無造作にスタイリングしただけにみえる髪型もお洒落な彼のことだから、絶妙に計算され
ているのだろう。
だが、それ以上に印象的なのは鋭い鳶色の瞳だ。
すこし長い前髪から覗く目鼻立ちは整っている。
右目は常に眼帯に隠されているが、それも彼がしていると不思議と恰好がつく。
この、ちょっと釣り目の青年は伊達政宗という。
若いながら風格がある。
それに身なりがいい。薄い青の開襟シャツにブラックジーンズ。
ラフだが着ているものも時計もセンスよくまとめられている。
その政宗が首を傾げる。
二人はカウンターに並んで座っていた。
「食わんのか、」
「え? あ、いや、食べる・・・けど。」
「なんじゃ? 旨くないのか。店はこのとおり汚いが、味はまぁまぁだと思うぞ」
箸を上げて笑う政宗の口元から、鋭い犬歯が覗く。
彼の言うとおり、店内はどこにでもある普通のラーメン屋のそれだ。
白すぎる白熱灯に、油ですべりそうな黒っぽい床。
天井につれ下げられた旧式の分厚いテレビは延々と野球中継を映している。
しかもそれを見ている客がいる。時間のせいもあってサラリーマン風のお客が
多いせいだ。
お客と言えば、
―――今夜のお客は最低だった。
今、思い出しても胸が悪くなる。
食事中にも関わらず、さっさと席を立ってしまった三成。おそらくお客は怒って仲介人
である孫市にクレームでも入れていることだろう。
だが、そんなことはどうでもいい。
中途半端な客を紹介してきた孫市も悪いのだ。新規の客はこれだから嫌だと毒づき
たくなった。
それよりも、三成が気にしたのは空いてしまった今夜のスケジュールの方だった。
一人でいるのは嫌だ。
こんな晴れない気分の日は特に。
一人でいたくない。
そう思い出したら息がつまりそうでじっとしてはいられなかった。
三成は胸を抑えて白い携帯を開く。登録した番号にかけ、すぐに耳に押し当てた。
「孫市、今、・・・空いてるやつはいないのか?」
『はぁ? そんなん急に言われてもなぁ・・・ちょっと待てよ』
困って頬を掻く孫市の顔が目に浮かぶ。
だがさすがに、そこは仲介人だ。電話口でもわかる。
孫市は、手帳を開いて客のスケジュールを確認してくれた。
『あー、政宗ならもしかしてその近くにいるかもな? 仕事場が近くだって言ってたや。』
「連絡してくれ。」
即座に言いきった。
我が儘だとは思わない。それよりも切迫していた。
それが30分前のこと。
政宗は三成の数少ない上客の一人だ。
プライドが高いと思っていた男は、以外にも我が儘に答えて急な呼び出しに答えてくれた。
孫市は「三成が会いたいって」とだけ言ったのだろう。
三成の適当な説明を聞いた政宗はただ「お前はとんでもないヤツだな」と笑った。
政宗は、ろくに食事もしていないだろうと三成をこのラーメン屋に連れてきてくれた。
(政宗はやっぱり度量が広いな・・・・)
気を取り直して麺を口に運ぼうとした瞬間、頭の上から割れ鐘のような声が降ってきた。
「おいおい、政宗〜! うちの店が汚いって? はっきり言ってくれるねぇあんた」
「なんじゃ本当のことだろう慶次。お世辞にもきれいとは言えんな。」
「ラーメン屋ってぇのは、見てくれじゃないのさ。噛めば噛むほど味が出る、店もそんな
のがいいってことよ! 」
大口を開けて笑うのはこの店の店長、前田慶次だ。
三成は一瞬、呆気にとられて男をぽかーんと見上げた。
店のロゴが入ったエプロンをしているものの、逞しい図体はどうみてもラーメン屋という
よりもガテン系だ。
その豪快な性格と気前の良さで、男性客から憧れの眼差しを送られているとかいない
とか。
「それは大根の話じゃろ馬鹿目! 何度聞かす気だ。それよりおまけくらいつけたら
どうだ慶次」
「おっ言うねぇ〜! 」
政宗は誰に対しても臆さない。
その自信がどこからくるのか三成にも分からないが、いつまでたっても野性味を失なわない
というか、悪戯小僧を思わせる横顔は好きだ。
不快でもないので三成は細々とラーメンを口に運びながら、二人のやり取りを眺める
ことにした。
「で、そっちの別嬪さんは誰だい? 」
「別嬪さんって・・・・俺は」
「ん・・・まぁ・・・三成はわしの連れだ、貴様には関係なかろう」
「はははは! そりゃそうだ」
一瞬、三成は政宗が答えに窮したのではないかと思った。
やはり彼にも名前と電話番号しか教えていない。
『誰か』なんて簡単なことにも答えられない。
名前さえ本名かも分からない、そういう関係なのだから。
政宗はおもむろに頬杖をついた。
「こいつはこいつだ、それだけじゃ。」
誰でもいいだろう?
と言わんばかりに不敵にほほ笑む。
慶次も「そうかい」と笑うとそれ以上詮索せず、ラーメン作りに戻ってしまった。
「珍しく静かにしておったな三成、ヤツは強面じゃが悪い奴じゃないぞ」
「だ、だから、カウンターは苦手だと言ったろう! 」
「は? 馬鹿めっ、ラーメン屋にきてカウンターに座らん奴は素人じゃ! 」
「お前はなんのプロなんだ・・・」
「だいたい作ってるところが見えんものを安心して食えん。」
「用心深いな意外と。」
「ふっ、こういうところに手を抜くやつは成功せん。三成は意外と無頓着だな」
「そういうものか?」
若くして父の会社を継いだ政宗だ。言うことに一々説得力がある。
野心家のくせに、嫌みじゃない。
それは人間的魅力があるということなのかもしれない。
「なぁ政宗、なんでラーメン屋なんだ? 金持ちのくせに、」
「くせにって・・・まあ、あれだ。たまには本当に旨いものが食いたいからじゃな」
ふふん、と口角を上げて見せる。
「は? 」
「あのなぁ〜、高けりゃ旨いってもんでもないじゃろ。」
「そうだけど・・・」
「こういうところで普通のものを食ってる時が一番幸せなんだ。お前には分からんか」
ふふっと笑われると自分がとてつもなくいやしい人間な気がしてくる。
三成は曖昧に「ふぅん」と頷く。
「そうかもしれない、」
あの中途半端なお客は何と言ったろう。名前さえ忘れた。
それに比べてどうして政宗は、いつもこちらの予想しないことをしてくるのだろうか。
しかも、それが不快ではない。
「俺をこんなところに連れてくるのは政宗くらいのものだな、」
「誉めておるのか・・・」
「まぁ嫌いではないから付き合ってやる」
「相変わらず偉そうな奴じゃなあ。」
「政宗、メンマいらない。」
あきれている政宗の丼ぶりに勝手にメンマを投入していく。
「あ、こら、ちっとは野菜くらい食え! 」
「メンマはいい」
「じゃあそっちのチャーシューもよこせ」
「これはダメだ。メインだろうが」
「馬鹿、油が嫌いなんだろう? チャーシューは脂っこいからわしが食ってやる」
「よく覚えていたな・・・でもこれは俺のだ」
「へぇ〜、・・えいっ隙あり!」
「・・・・だ、ダメだって!」
「ちょっとやめてよ〜」「いいだろハニー」ばりのいちゃいちゃ具合である。
そんな二人に「まったく」と突っ込みを入れたのはこの店の主人であった。
「お熱いねぇ〜」
「なんじゃ、慶次?」
「邪魔しちゃなんだが、ハイ、お待ち。こっちは冷めちまうからねぇ」
にやり、と口の端を上げて、カウンターに置かれたのは餃子の皿だ。
「ん? 頼んでいないぞ」
「これはサービスってやつさ、政宗がせっかく別嬪さんを連れてきた記念だ!」
ガハハハハ、と大口で笑われては三成も言い返せない。
「じゃ、遠慮なくいただこう三成。ほら、食え、いつもいつもお前は栄養のなさそうなもん
ばっかり食って・・・たまにはこういうモンも食え」
「お母さんか」
ぷぅっと頬を膨らませる三成。
だが、たまには悪くないと思える。
たとえ、つかの間の時だとしても
たとえ、望めぬものだとしても
―――――この時が永遠ならいいのに・・・・・
ナイトパレードはもう終わり、
手を引かれて帰る子供たち。
そうここは、留まることのできない夢だから。
政宗様登場です。BSRと無双で迷ったんですが結局無双政宗に
しました。私、政宗好きすぎるな・・・(笑)
どんどんキャラが増えるといいのに。しかし、今回、わかりずらかったですね。
すみません。回想とごっちゃです。文章力が追いつかないの〜(>_<)
モドル