『悲しい三角』

  ゆらり

 行燈の火が風に揺られる。

「兼継、・・・」

後ろから抱きすくめられて三成は咎めるように兼継の腕を叩いた。

「三成、わたしはお前のことが好きだ」

「・・知っている」

二人だけの晩酌。ここは三成の居城だ。誰に遠慮することもない。

 まあ兼継の場合、誰がいたところで構いはしないのだが。

「友、としてだけではないぞ? 」

「やめろ。せっかくの酔いが醒める、それに暑苦しいぞ兼継っ! 」

 早く放せ、と言わんばかりに三成の抵抗は大きくなる。

「恥ずかしがらなくてもいいではないか、はははっ☆ 恥じらう三成も
   むろん好きだがな、この私の前では存分に甘えてくれていいのだぞ!」

「お・・お前とはもう口をきかん!」

本格的にすねてしまったようで、三成は呑めもしないのに盃を一気に
あおった。

ぐびぐび・・・そんな小気味いい音に兼継は苦笑するしかない。
三成の白い喉元が闇に浮かび上がる。目のやり場に困るとは、こういう
ことだ。

「こらこら、無茶な飲み方をするな、ほら、お前を二日酔いにすると私が
 怒られる。」

「なんだ兼継は、言いたいことばかり言いおって、俺には何も言わせない
 気か? 」

 ええ? と兼継の胸にもたれ掛かって睨んでくる。

「酒ぐせ悪っ・・・」

「俺だって、  俺だって」

「三成? 」

「嬉しかった、 好きだと言われて。 それがどんな意味かくらい俺に
 だってわかる。」

「それならっ」

「だが・・・幸村はどうする」

 胸にもたれかかったまま三成はもう一人の友の名を口にした。

「なにを、三成? 」

「幸村はどうするのだ兼継? 俺たちがそういう仲になれば、どうしたって
 今まで通りにはいかないだろう。幸村は優しいから、気を使ってよそよそ
 しいのなど俺は耐えられん・・・
 俺はまだ三人でいたいのだ。今のままではいけないか? 」

 この関係を壊したくない。 今が心地良いから。

「三成、しかしだな、友情と愛は別で」

「友に隠れてなど不義、だ。」

 残酷。 その一言で三成は兼継の行く手を完全に塞いだ。

「俺に、選ばせないでくれ兼継。幸村も兼継も俺には必要だ」

 この顔で、この愛する人に、懇願されて断れるものなら立派な冷血漢だろう。

ただ兼継は深いため息とともに、三成を開放するしかなかった。




「幸村、私は三成のことが好きだ」

「へ?」と幸村は客人の言葉に首を傾げた。

 ここは真田邸である。

突然やってきた友に幸村は嫌な顔一つせず付き合ってくれていた。

 兼継は出された杯を少々乱暴に空にする。

「三成が好き、だ」

「私も、です。」

 ああ、やはりこいつもか。

静かに言う幸村の目は笑ってなどいなかった。

(薄々気付いてはいたんだがな。 )
三成を見つめる熱い視線は、単なる憧憬の眼差しなのか判断しかねると
ころがあった。
 それに焦がれるような痛みの色が見え始めたのはいつからか。

「幸村、」

「好きですよ。」

 兼継の言葉を遮って、幸村は屈託ない笑みを浮かべた。

「三成殿も、兼継殿もみんな大好きです。」

「!」

「兼継殿もそうでしょう? 」

「そ、そうか・・ああ。そうだな」

 やられた。

幸村は満足そうに笑みを深めた。

三成に手を出させないための布石。

(友情にひびなんて入れませんよね? )

自分も動けなくなると分かっていて、幸村はそう言う。

兼継は無性におかしくなってきた。

「ははっははははは・・・」

「兼継殿? 」

多分、自分が三成を奪ってしまうことも

幸村が先に動くこともない。 結局、全ては三成の望んだ通りになった。


絡むことももつれることもなく、悲しい三角関係はまだまだ続く・・

  

                                                        ――
-
 了 ――


 なんて不義な話なんでしょう? 
いや、トリオで三角関係を目指していたらこうなってしまったんだ!!
 兼継の喋りが胡散臭い+幸村の笑顔が黒い+三成が残酷天使☆
バカな。 次はガンバッぞww