※子供に無体はあかんと思う。ので、
家庭教師 真田幸村(21歳)×高校生石田三成(18)
そこそこいちゃいちゃしてますので苦手な方、義務教育の方はご遠慮ください。。。
『SAVE ME? 』 −おまけ−
思えば、初めて会ったときから痛いことばっかりだ。
幸村は深い溜息をつく。
心なしか教材の入った肩掛けカバンが重い。
教え子は問題児で、さらに問題なのは自分の方。
あろうことか幸村は彼に手を出してしまった。
問題だらけの関係。
養子だという三成と義理の両親の仲は、いいとも悪いとも言えなかった。
一定の距離を保って、誰も近づけない。
そんな息子に手を焼いたのか、両親は彼に家庭教師をつけることにした。
真田幸村はバイトで家庭教師をしているというだけで、ただの大学生。
(ちなみに担当は理科だったりする。)
人柄がよければ誰でもいいというからきてみたものの、石田邸を訪れた彼は
「ぷふっ」と吹き出した。
総敷地面積、坪単価、豪邸訪問・・・庶民の脳みそはフル回転。
まさにお金持ち。高い門扉にレンガづくりの塀。
風よけの木々で家の全貌は見えない。もうちょっとした森だ。
「はっえ?! 門でかっ・・・ってえええええ自動で開いちゃうの??? 」
とまあ、場違いな空気に汗だらだらだったわけで。
(お金持ちの考えることは分からないよ〜)
早くも涙目だった。
しかも初めて会った教え子、石田三成はとんでもなく美男子で、・・・しかも
えらく頭が良かった。
(家庭教師・・・いらないんじゃ? )
「先生、」
「はっはひ! す、すごいね三成くん頭いいんだ〜」
幸村がどんなに予習してきても多分、三成はさらりと問題を解いてしまう。
解説するところがない。
「汗、かいてますけど・・大丈夫ですか」
「う、うん任せておいて」
そんなこんなんで、一ヶ月半。
頭もよくて美人、そんな三成に惹かれないはずがない。
彼もまた、幸村の明るさに身を寄せた。
晴れて(人さまには言えないが)恋人になれたのだ。嬉しいに決まっている。
決まっているのだが。
――三成は素行が悪かった・・・。
「また、夜遊びですか? いけませんよ三成くん、君はまだ未成年なんだし」
「ふんっ家庭教師は私生活にまで口出しするのか? 」
朝帰り、無断欠席、どこでなにをしているやら。
今日帰ってきたのも幸村のくる夕方になってからだ。
制服のままでふらふらしているらしい。
三成は鬱陶しそうにブレザーをベッドに放った。
「みんな心配してるんじゃないかな? 」
母親よろしく、幸村は三成に放り捨てられた可哀そうなブレザーを拾って
ハンガーにかけてやる。
「みんなって具体的に誰ですか、別に俺のことなんてほっておいてもいいで
しょう。」
「(困った人だな〜) た、例えば、お父さんとかお母さんが」
「・・・・・あのひとたちに頼まれちゃったわけですか? 俺に説教して
やってくれとか。」
笑える、と言ったが三成は笑わなかった。
「まさか! あ、大きな声出してすみません。あの、でもいるはずだよ心配する人、
ご両親だけじゃなくて友達とか」
「先生は、」
「え」
それは素直な問いだったかも知れない。
淋しそうな琥珀色の瞳が答えを待つこともなく反らされた。
「み、」
「なんでもないよ。」
素っ気なく言って、三成はなにを思ったかゆっくり幸村に近づくとその首に腕を
回して首を傾げた。
「そんなに心配なら、毎日ついてくればいいだろ? 」
そんなことできないでしょ、と嘲笑う。
違う誰かの匂いをさせて。
その綺麗な顔で酷いことを言う。
ぷつん―――何かが切れる音がした。
(もう限界だ。)
「あ」
三成が小さく叫ぶのが聞こえた。
子供扱いはやめてよ
だって分かってる。 本当はいい子になんかなれない。
三成は天井を見つめた。
二人分の体重にベッドがきしんだ音を立てる。
誘うように緩められた赤いネクタイ。
それを引き抜くと幸村は、そのまま三成の細い両手を頭上で縛り上げてしまう。
「ゆきむら・・・・こういうのは好きじゃない・・・」
縛られたことが不満なのだろうか。三成は押し倒されたまま懇願する。
束縛を嫌う彼にとって、縛られること自体が恐怖。
細い肩が震える。
「ほんとに君はいい子じゃないね、」
「? 」
とんだじゃじゃ馬で、手懐けるなんて無理。
「っう」
でも、―――
「三成、・・・・好きです」
「ァ・・・あ、ん・・・・」
嫌だと、首をのけぞらせる。
闇に浮いた白い喉元。 薄いカーテーンごしに西日が彼の赤い髪を照らす。
まるでそれ自体が別の生き物のようにシーツに蠢く柔らかな髪。
「好きじゃ、ない・・」
皮膜の薄い首筋に口付けつつ、油断ならない手がワイシャツの中に忍び込む。
「ん・・・あ・・・そこっぁ」
「くすぐったい? 」
「・・・・幸村、・・・なんっ」
なんで? その言葉は継げない。
「口、開けて」
「あ、や・・・・ぁ」
閉じた唇を押し開いて、逃げる舌を執拗に追う。
熱い。
嫌な水音に涙が止まらない。
「泣いてるんですか、」
合わせた唇から零れる滴を指で拭ってやる。
「ゆ・・・幸村は、知ってるか? 」
まどろんだような酔眼で必死に頭を働かせている。
「・・・・?」
「は、ハァ・・・は・・・」
ああ、聞きたくない。
またそうやって綺麗な顔でとてもひどいことを言う。
「今度はなんなの、」
苦く吐き捨てられても三成は冷淡だ。
息を整えると口の端を少しだけ持ち上げた。
これが、彼なりの抵抗。
押し倒されたまま、見上げた幸村の顔は辛そうで、それでも言葉は口をついて
出ていく。
「俺が何人と付き合ってるか知ってる・・・? 」
「・・・! 」
「付き・・・合ってるわけじゃないか、ただの、遊び・・・なんだから」
冷たい。
底冷えするような瞳の色。
三成はこの容貌だ。言い寄る男なんて掃いて捨てるほどいるのだろう。
一々断るのも面倒な奴らばかり。彼がそんな奴らとどこまで関係しているか
なんてわからない。
「それでいいんですか」
「・・・? いいよ、良くないと思うの? 」
イイコニナンテナレナイ。
あなたが好きないい子になんてなれないんだ。
それでも
「幸村も、俺とする? 」
歪んだ笑み。
―― それでも好きだなんて言えるのかお前に。
「別にいいよ、幸村の好きにすれば。」
みんな同じだ。
言い寄るやつも、扱いづらいと自分を他人に任せる親も、生意気だとつっかかっ
てくる奴も。
「この顔が好き? 俺がなに考えててもみんな関係ないんだろう…?! 」
誰も、見てくれない。
誰も、そばにはいない。
「それでもいいよ俺は、」
幸村のこと・・・
「大好きです」
「は」
困惑する三成をよそに幸村は半身を起して、まくしたてる。
「三成さんはそりゃーちょっと生意気で、先生の私より頭良くて困っちゃうし、
お金持ちで住む世界違うなーとか思うし、あ、うち貧乏なんで。」
「え」
そんなこと明るく言われても困る。
「浮気性で、気分屋で、ちょっとしたことで怒っちゃうし扱いづらくて、」
「いいすぎだろう?! 」
三成も身を起こす。
「ほら、」
「な、なに? 」
「笑うと可愛い。」
「はっな・・・馬鹿な!!! 」
抗議する三成を無視して幸村はその体を引きよせて優しく抱きしめた。
お互いの皮膚を介して伝わる温もり。
寝乱れてしまった髪を梳いてやる。
「だから、どうしよーもないのにすっごく好きなんですよ。一日中付いてきていいっ
て言うならそういたっていい。安心した? それともがっかりした」
「・・・・りょう、ほう」
ぐすっと鼻をすする音がしたのは聞こえないふり。
三成は幸村の肩に額を押し付けると零れる涙を止めるため瞳を閉じた。
なんだか足りないものだらけ。
でも、それもいいか。
「これからもよろしくお願いします、三成さん! あ、でも夜遊びはだめですよ」
「はいはい。そっちこそ、もうちょっと勉強した方がいいですよ、特に物理は・・」
「す、すみません」
本気でしょげる幸村に、仕方ないなと相好を崩す。
「これからもよろしく、せんせっ。」
「は、はい…」
ダメな生徒と先生。
二人の行く先は? ――― 前途多難。
END。