※ 三成はすでに死んでいます。大阪の陣で敵となった幸村に会った兼続は…。
『君がいない』 ― 兼続編 ―
「わたしは、無口になったよ」
そりゃ無口にもなるだろうさ。
言って、兼続は自嘲した。
―――だってどこを見てもお前がいるんだから、三成。
「兼続、俺は勝つ。必ずだ。」
「ああ、その意気だ三成! 必ず我らの手で義の世をつくるのだ」
頷く三成が、なぜか泣きだしそうな気がした。
不信。いや、―――
そうじゃない、なにかを感じ取っていた。
「必ず勝つ」と、
そう言わなくては己を奮い立たせられなかったのだろう。
三成は些細な不安さえ、さらけ出すことをしなかった。
彼なりの優しさ。彼なりの強さ。
「もし、俺が・・・」声にならぬ言葉を形どる唇。
「俺が負けたら、お前はどうする?」
琥珀色の瞳がそう問いかける。
あの時、本当はそう口にしたかったのではないか?
「いや、なんでもない。気にするな。」
兼続には答えられないと分かっていて、彼は口にしなかった。
口を閉ざして、代わりに微笑んだ。
「お前がいれば心強い、兼続」
そう言ってくれたのに。
「必ず、仇を討ってやる。」
心配するな、と。どうして一言言えなかったんだろう。
そう言えない。
言えなかった。
両肩にかかるものが重すぎて・・・。
上杉が関ヶ原に向かう徳川軍に追撃をかけることはなかった。
そして、三成亡き後、戦は終わった。
友のために死んでやることなど自分にはできないのかもしれない。
約束してしまえば、行かなければならなくなるから。
心のどこかで三成を裏切っていた。
多分、三成はそんな兼続を責めない。
「兼続、」
「辛気臭い顔をするな。」
「お前は、・・・馬鹿みたいに明るいな・・・、いや褒めている・・のだ。」
―――なにを見ても、お前を思い出すのだ三成。
青い空を見ても涙が出るのだ人は。
笑っていても、ふとしたときに思い出す。
ともに過ごした日々が長すぎる。
忘れるのにも同じくらい時間がかかるなら、永遠に許されることはないのだろう。
君を思う。
思うのに、悲しむことさえ許されない。
それなのに忘れられたらいいなんて、都合がいい。
言ってやりたかった言葉はなんだったのだろう。
最期まで口を開かなかった君は、なにを言いたかった?
どうしてこの想いは今、お前に届かない、―――――三成。
好きだったんだずっと。
もっとたくさんの言葉をかけてあげたかった。
好きなんだろうずっと。
許されないとしても。
裏切りだとしても。
「らしくなくて、見ていられないな」
不浄を焼き尽くす炎を背に、幸村は変わらぬ瞳で言い放った。
友のために生きるのか、
友のために死ぬのか、
「わたしたちの道は違えてしまったようだな幸村、」
兼続は柄に手をかける。
三成はなにを望むのだろう。
それは分からない。
「戦わなければならない、なんとしてもだ。家康には適わないと分かっていても、
誰かが挑まねばならないだろう兼続?」
その高潔な魂を・・・
守ってやれなかった。
「兼続殿、」
「済まない幸村、わたしはまだ死ねないのだ。」
―――三成のためにも。
なにをどうすればいいのかはまだ分からない。
けれどそんな中途半端なまま死んでしまったらそれこそ三成に顔向けできない。
わたしは、まだ生きる。
「謝らないでください、兼続殿」
行くべき道は違くとも、行きつく先は同じだと信じている。
FIN.
意外と長くなってしまいました。
まだ希望は見えないけど、生きてみよう。そう思う兼続さん・・・。