※ 小食な殿。 精神的にはイタイような・・・結局暗くはありません!


『食べたい』



「小食なんですね、」
「う、うん・・・・」
そんなことないけど 。と三成は歯切れ悪く言って、菓子パンを頬張る。

ほんとはもっと食べたいんだけどね。

「よく食えるな、幸村。」
「え?」
下じきくらいありそうな(ってことはA4サイズか。)弁当箱に白米をしきつめるこいつら
体育会系の神経が信じられない。
それでいて、おかずは必ず油ものだったりするから恐ろしい。

(神経云々というか、胃のできが違うな。)

三成は同僚の弁当を覗きこんで深い溜息をついた。

こうしてつまらないオフィスの、それでも、貴重な昼休みは不毛に終わっていく。



  ☆         ☆            ☆            ☆



食べることは好きだ。と思う。
さほど、美食家でも大食漢でもないけれど、食べたくないとは思わない。

おいしいものが食べたいし、もっとたくさん食べたいんだけれど。
それを許さない体質が恨めしい。


「最近、油ものがダメになってきた。前から、そんなに好きな方じゃなかったけど、ああ、嫌いなわけ
じゃないんだ。うん・・・好き、だったときもあるかな。」
箸が進まない。
三成は、天ぷら定食のメインである揚げ物をつついたり、転がしたりしているだけ。

「天ぷらはまだ・・大丈夫。粉の問題なのかな」
「そうですかねぇ、どっちかって言うと油じゃないですか。 悪い油だとあたるって言いますよ?」
「そっか」
座敷席で二人、天ぷら屋でディナー。他の客は中年サラリーマンに地元の酒飲み。

カウンター席の方に吊るされたTVは万年最下位の野球チームを映している。

高いお店でなくていい。

「あんまり食べられないから、・・・左近には悪いと思ってる。」
「は? どうしてですか、」
左近は急になにを? と笑って頬を掻く。

「もっと行きたい店とかあるだろ。外食、好きだけど食べきれないと悪いし・・・けっこう胃にくる。
こんなんじゃどこにも行けないよな」

ほんと。
悪いと思ってる。

俯いた三成の長いまつ毛が濃い影をつくる。

「まさか! 俺はなんでも食べる派ですからね。どこでもけっこう楽しくやってますよ。
 それに外食だって、三成さんみたく高い店にこだわらないって言うんなら楽って言っちゃ
 変ですけどね、財布には優しいですよ」
「ああ、」

でも、たくさん食べる方が健康的でいいよな。
と、思わずにはいられないから。
自然三成の口から溜息がこぼれる。

イタリアンもフレンチも、中華も和食も、・・・なんでも好きなように、なにも気にしないで食べられたら
いいのにね。

そうしたらもっと左近の行きたい所に行ける。いや、自分がもっといろんなところに行きたいんだろうな。

せっかくのデート、
それを台無しにするのは自分。



普通のお店でいい。
一緒にいられたらいい。
でもそれって、つまらなくない?

「最近は見るだけでダメになってきた。」
「なにがですか? 揚げ物?」
「うん。・・・TVとか、グルメ番組、あれってちょっとキツイよな。」
「たしかに。見てるだけで胃がもたれてきそうなのありますから」
「え、左近はなんでも食べそう」
「いや・・・・食べます、けど」
「やっぱり」

油がのってる、とか。こってり、とか。したたるような肉汁を全面に押し出したりする。
そんなの自分にとっては宣伝文句にもならないのに。

「食べてる人が楽しそうだからさ、たまに羨ましい・・・のかな。」


「三成さん、」

ちょっと、ちょっと、と手招きする仕事終わりのサラリーマン。
強面の顔とゆるんだネクタイがアフターファイブを思わせる。
怪しいセールスマンにしか見えなくてかなり笑えるのだが、三成は素直に顔を寄せた。

「なに?」

赤い髪をよけて
形のいい耳介に囁きこまれたのは、

「食で満たされない分は、―――オレが満たしてあげますよ」

「は、・・・・なに?!」

「たっぷりとね」

見る見るうちに白皙の面が朱に染まる。
それをしげしげと眺めながら左近はいやらしく口の端を持ち上げた。

「あれ? なに想像しちゃってるんですか、え〜、三成さんったらもしかして♪ そうですかそうですか」
「ちがっ・・・・・!! ほんとに違うからな!」
小声で念を押す。
そういう変に生真面目なところが可愛くてたまらないのだが、本人は気付いていないらしい。


「まあ、そう言わず。いろんな意味で、今日は楽しみですね」

「そんなのぜんぜん楽しみじゃないから・・・・な、」



一つ満たされないことがあると、人は他で満たそうとするんじゃないかな。

この寒い空の下、
あなたを満たすのが俺であってほしい。


結局、なにがしたいんだこの人たちは(苦;
アフターファイブ(仕事終わり)の左近・・・うふw スーツで普通のデートするのって
萌えると思ったんですが。ラーメン屋とかね。
小食な殿が書きたかっただけですねこれ。