※ついにイベントネタ! パラレル全開です。



『星に願いを』



  七夕とかさ。
 いや別に・・・やりたいわけじゃないんだけどね?


「殿〜、そんな近くで画面見ちゃ目悪くしますよ〜」
「んんーああ。もう悪いから大丈夫だ」
そういう問題ではない。
ガラスのローテーブルの上には麦茶に読みかけの週刊誌、それから作動音の
やたらうるさいノーパソ、必要なものはすべて手の届く範囲にある。
これぞ三成の作りだした仕事と生活を両立させる快適スペース。

まあ、綺麗好きの左近にはすこぶる評判が悪いのだが。
ともかく、三成は膝を抱えたままの体勢で(なぜか体育座りがおちつくらしい)
ノートパソコンの画面に額をくっつけかけていた。
「いや、だめですって。たまには健康に気ぃ使ってくださいよ。不健康越えて
 最近病的イメージついてますよ! てか、殿テレビ見ないなら消して」
「んー見てるよ。」
「見てないでしょ」
フライ返しをもったまま左近は眉根を寄せた。
キッチンから顔を出した左近はもちろんエプロン姿だ。
「あー見てなくても聞いてるから」
「・・・・よくそういうこと言う人いますよね」

二人が住むのは、キッチンダイニングと寝室だけというシンプルな部屋だ。
あとそれにトイレ風呂を付けただけの要するに2DKのマンション。
それでも小奇麗な外観と、贅沢趣味のない二人にはちょうどいい住まいとなっ
ている。
ちなみに暑い日は寝室の窓を全開にしてすごしている。
もう玄関開けたら、居間を通して寝室まで丸見えなのだが・・・。

「なに見てんですかそんなに熱心に? 」
「やだ。」
「え? 」
「別にたいしたことないから左近は気にせず夕飯をつくってくれ」
と、ひらひら手を振られればちょっとは気になる。

「なに? なんですか〜? 怪しいサイト見てたりして〜殿も隅に置けま
 せんな」
「ちがっ・・・もういいって言うのに」
ぷうっと頬を膨らませてしまった三成の肩越しに左近は画面を見つめる。

どっかの天文学サイトだろう。
派手な色と装飾文字で『天の川観測』と書かれている。
星の洪水かと思われるほど明るい天の川の写真に、ポップな絵柄で星を背負った
乙女と男子が描かれている。
「ああ、七夕ですか! 」
「むう・・・」
左近は壁にかけられたカレンダーに目をやった。
気がつけば暑い盛り、今日はもう7月5日だ。
「もうそんな時期でしたか、大人になるとやりませんよね七夕祭り。にしても
 殿がこういうイベントに興味があるとはね〜」

 左近のにやにや笑いに三成の細い眉がきゅっと寄る。
不満そうに唇を尖らせて言う。
「ない、ないって別に。ほし、星だよ、そしたらたまたま時期があれで・・・
 俺は天の川の方を見てただけだぞ、別に祭りには興味ないからな! 」
「そうですか? 」
「そうだ。別にやりたいわけじゃないからな! だいたい七夕は彦星と織姫の逢瀬の
 話なのだろう? ちょっと便乗して願い事書くとかダメじゃないか? 」
「まあ、思えば星に願いをってロマンチックですよね〜」
生真面目な性格がここで顔を出したか。
三成は自分で言って首を傾げてしまった。
「そもそもクリスマスからしておかしいよな、なんでプレゼントをもらいたがる?」
「いや、そんな真面目に聞かれても分かりませんて。いいじゃないですか〜老若男女
 楽しめる行事なんですから、のっかとけばいいんですって。」
「そうかも知れんが・・・」
「幸せはいくらでも分けてもらえばいいんですよ、伝説になるくらいの恋人たちだ、
 みんなあやかりたいんでしょ。ま、たしかにちょいと乙女趣味かも知れませんがねぇ」
からうように笑うとますます三成は頬を膨らませた。

「くだらんな、」
 ふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまう。
どうもラブロマンスになると逃げる癖がついているらしい。
なにがいけないのは分からないが左近は「いかんな〜」と内心頭を働かせていた。

左近は大げさに相づちを打った。
「ふうんそうですか! じゃあ、うちではやらなくていいんですよね? 」
「え? 」
「いや、やりたくないんでしょ? 七夕」
「べ、別に・・・」
「そうですか、いや〜良かったなぁ! やりたいとか急に言いだされても笹なんて
 用意できませんからね、」
ほれほれ、とおちょくってくる。

「俺は子供かっ。やらなくていいってば! それより、左近今日の夕飯は? 」
 エプロン姿で正座する左近にすり寄る。琥珀色の目が上目づかいに瞬く。
そうすると普段は怜悧な美貌も不思議と和らいぐのだ。
おっとりとした、本来三成の持つ柔和な(少なくとも左近はそう思っている)
雰囲気を遺憾なく発揮する。

長いまつ毛に縁取られた形のいい目。高い鼻梁がどことなく挑発的に見える。
完全におねだりモードだ。
だが、左近の方が上手だった。
「今日はソーメンですよ〜」
「素麺かよっ」
「うわっ暑いなか一生懸命、メン茹でたのに『かよっ』て! 」
「うーー! 」
「文句ならせめて人語でお願いしますよ」
 甘い雰囲気などどこへやら、三成はパソコンに向きなおってしまった。
 それでも一応、電源を落として食事をとれるスペースを作りだす。
「健康云々言うなら、もっといいもの食わせろ、けち」
「えーだって暑いんですよ作るのも、それに素麺だけじゃないですよ。ちゃんと
 おかずありますから、」
「うぃー。」
「ほらほら、」

ぐだぐだする三成を促して、左近はキッチンに戻る。
さて、七夕はどうするか。顎をさすりながら首を捻る。
(晴れるといいんだがね、笹、手に入るかなー? )
まあ、なにはなくても三成とすごすなら楽しい日になるだろうけど。

 ―― せめておいしいものを食べさせてあげよう。

うん、と左近は一人頷いたのだった。


(7月5日 完。) 

       七夕〜☆  そして左近主婦。三成は、しっかりものの
         イメージがなくなってきた。
         うちの殿はニートなのか・・・ (え