※短編にてアップした『凶悪天使』のつづきです。


「凶悪天使 2」


お姫様を後ろに乗せたままの全力疾走は疲れる。
だが、季節は初夏。
坂を全力で昇り切った清正を待っていたのは、公園の深緑と爽やかな風だった。

「はふぅう」

いい汗かいたぜ。と、背後を振り返る。

「なにをやり切った顔をしているのだ、清正? たかだか坂道くらいで」
「・・・・・・・・・・・・・・・・おまえ」
「あ?」
「なんでもねぇよ。ちっ」

「汗だくでお前を運んだ俺の苦労を返せ馬鹿野郎!」くらいのことなら、その綺麗な顔に
吐き捨てても許される気がした。
だが、言わぬが花。清正は密かに嘆息した。
当の三成は相変わらず足をぱたぱたさせるだけで、何の役にもたたない。

「おい清正、今、舌打ちしなかったか?」
「してねえ。」
「しただろ、」
「してねーって。」
「ふうん?」
「・・・ああ、うるせぇな。だってお前、やってみろよ二人乗りで坂、昇ってみろよ」
「はあ?」

なんで、俺がぁ?と三成は、おもしろくもないのに口角を釣り上げた。
「それよりコンビニだ〜。暑いではないか、」
「わーってるよ。コンビニって、ここら辺にあったよな? 家の近くでもいいけど、めんどくせぇ。」
「うん」
「お前、どこでもいいんだろ。」
「別にいい。」

清正との会話にたいした興味もないらしく三成は、珍しく素直に「うんうん」頷いている。

(そうそう、いつも大人しければ可愛いんだから。)
ついでに言えば笑ってれば、もっといい。

だが三成が素直だとなぜか釈然としない。こう、胸がもやもやとする。
清正はため息交じりに自転車のペダルを思い切りこいだ。

(こいつに悪態つかれないと物足りないなんて、・・・しっかりしろよ俺! 俺の将来、大丈夫か?!)


****



駅まで行かずとも二人の住むマンションには辿りつける。
だが、学校の付近でコンビニを探すよりも駅前の方が手っ取り早いのは、たしかだ。
だから、二人は
「なぁ、駅まで行くか?」
「近くまでなら行ってもいいぞ。まぁ清正に任せる」
と簡単に行き先を決めた。

しかし、この単純な会話が後に災いを呼ぶとは思わない二人であった。



「あ、」
「あっ」
「・・・・・・・あ」

ウィ―ーン。
むなしい音を立てて正則の背後で自動ドアが閉まる。

三者三様に嫌な顔をして、言い淀む。
そんな微妙な空気を破ったのは、予想通り能天気な正則であった。

「よぉ! 清正じゃんか」
「お、おお・・なんだよお前も今、帰りか」
「そうそう! って、なになに、頭でっかちも一緒かよ。なにしてんのお前ら?」
「べ、べつになんにもしてねえよ」
「うるさいのだよ馬鹿っ」
「ああ? なんだよお前ーぇ、ムカつくなあ、」
「あ、あのな、これは・・・」

なんとかしなくては。
清正は焦った。非常に面倒くさい奴に遭遇してしまった。
正則は鈍感な上に、単純だ。
はっきり言って、恋愛相談なんか絶対したくないタイプ。いい奴なのは分かっている。
だが、今は頭が痛い。

しかも、三成は毛を逆立てる猫のように臨戦態勢だ。

「もしかしてお前ら・・・マジかよぉ!! はっは〜付き合ってんの?」
「はぁ? 貴様の脳は単細胞を通り越して微塵も機能していないのだな」
「なんだとてめぇ! やんのかコラァ」

(う、うぜぇー)

しかし、ここであきらめてはダメだ。
最悪、「変な噂」を立てられ、あげくに三成にも嫌われてバッドエンドだ。そんなのは困る。

「あのな、正則、これは三成の自転車がな」

「二人で一緒に帰ってんのかよ〜ヒューヒュー」
「貴様には関係なかろうが、うっとうしい」

「自転車がな・・」

「なんだよ、マジで交換日記とかしてんのか〜お前らぁ?」
「してるわけなかろうが。小学生か、お前は。」

「じてん」

「馬鹿馬鹿馬鹿」
「あ、バカって言った方がバカなんだかんなっ!」
「馬鹿正則っっ」


「って、お前ら俺の話聞けよ!!!」


世界の終りってこんな音がするんじゃないか?
ガラガラガラっと足元が崩れる音がした。


つづく・・・


正則がとてつもなくウザいです。すみません(@_@;)
はたしてこの話は、青春ラブストーリーになるのだろうか!?
まだ、つづきます。

モドル