『海に行こうよ☆ 3』
「海だ! とうとう辿りついたぞ三成っ」
「ああ、」
兼続は嬉しそうに眼前の海を指差した。真夏の太陽光でそれはもう、銀波金波に
輝きまっくている。
「海は広いな! 」
「見ればわかる・・・というかお前暑苦しいな」
白いシャツにビーチサンダル、端正な顔立ちとあいまって兼続は東北出身者とは
思えないほどに見事な海男っぷりを発揮している。
それに比べて、連日のクーラー快適生活に慣れた三成には耐えがたい暑さだ。
まったく焼けていない白い眉間に深い皺が刻まれる。
「帰らないか? 」
「はははっ弱気だな、三成らしくもない。やはり海に来たからには泳がなくては!」
「そうですよ〜楽しそうですね♪」
「・・・・・そうか」
三成は汗でべたつく額を拭った。
―― さかのぼること十分前・・・。
激しいドライビングテクによる昇天間際、一行はとうとう海にたどりつくことができた。
関東の某有名な海岸線である。
朝に出て、ついたのは昼時。
ちょうどいいと言えばいいのだが、おかげで人込みもすごい。
「愉快な旅だったな、みんな! 」
「あんた、なんでそんなに元気なんですか? 死でへの旅立ちかと思いましたよ」
「えっと〜・・そうでしょうか? 」
けろっとしている幸村がある意味一番怖い。
「まさか幸村にあのような一面があるとはな。さすがに俺も海につく前に死ぬかと
思ったぞ・・・」
「そ、そうですか? せっかくの海で少々、張り切り過ぎてしまったようですね、
すみません三成殿」
しょぼん、と肩を落とす幸村に三成は慌てた。
「い、いや! そうでもないぞ幸村、うん、案外スリルがあって楽しかった! ・・・かもな。」
「そうですか? 」
「甘い! 甘いですよ殿!」
そんなことを言われても、三成は幸村を見つめた。
見上げてくる子犬のように濡れた黒い瞳。
( くぅ〜ん。)
これに勝てる奴なんているのか!
「はうっ・・・仕方ない幸村は初心者なのだから、次は安全運転で頼むぞ」
「はい! ありがとうございます三成殿っ」
「いやいや完全に騙されちゃってますから、甘いですからねっほんとに! 」
左近の必死の説得に三成の柳眉が跳ね上がる。
「うっせえ。」
「えぇええっ? 一言、一言なんですか殿? 」
ぷいっとそっぽを向くと三成は海辺に向かって歩き出してしまった。
* * * *
「暑い、兼続〜・・・」
着替えてビーチに出ると、三成は即効で幸村が立てたパラソルの下にうずくまっ
てしまった。
そう言われても兼続には「仕方ないな」、と苦笑することしかできない。
「だって暑いのだから仕方なかろう? 」
「そうだな」
下から見上げても兼続の顔は秀麗だ。眩しそうに細めた目がどことなく涼やかで
海にいることさえ忘れそうだ。
「そうだ、ほら三成の麦わら帽子だぞ、これを被れば元気はつらつ間違いなしだ! 」
「え・・そうかぁ? 」
思い出したように兼続は、クーラーボックスの脇に置かれたバックからつばの広い麦わら
帽子を取り出した。
「似合ってるぞストローハット」
「なぜ英語で言う、」
文句を言いつつ素直に被るあたり三成も可愛い。
赤っぽい髪に金の麦穂がよく似合う。
「というか、暑いのならまず、脱いだらどうだ三成? 」
それ、と指すのは三成が着込んだグレーの半袖パーカーだ。
「やだ。焼けるだろ、ぎりぎりまでは脱がないからな! 」
「ぎりぎり? 」
女子高生か・・・。とは言わないでおくのが賢明だ。
太陽光降り注ぐ浜辺でそれさえ反射しそうな熱気。
いや、やる気。
「海ですよることと言ったら、」
幸村は遥か遠望を目指す。
陽炎の立ちそうな砂浜を踏みしめて、アキレス腱を伸ばす。しっかりゴーグルを装着
すれば準備は万端だ。
「遠泳に決まっています! いざっっ あの島まで!! 」
今、幸村はイルカになる☆
幸村は勢いよく海に向かって走り出した。それはそれは勇ましい姿だった。
波をかきわけて沖を目指すその背がぐんぐん遠のいていく。
ただそれに続く者は誰もいなかった・・・。
「ははは、幸村は無邪気だな」
「ああ、」
ちょっと暑苦しいけど。
「それより、兼続、お前は泳がなくていいのか? 」
ちらっと隣に立った兼続を見つめる。こういうイベント事は誰より好きそうなのに。
海についてからは妙に静かだ。
三成と違ってこちらは完全に水着で泳ぐ気満々なのに、だ。
「泳ぐ、あとでな。」
「・・・・俺のことなら気にしなくていい、別に子供じゃないんだから一人でも平気だ。
お前も幸村と一緒に」
「気にするな三成、私がお前と一緒にいたいだけだ。」
「兼続? 」
「せっかく海に連れ出したというのに、三成が楽しくないのでは意味がないからな」
にっと笑う顔がいつになく子供っぽい。
「ふ、ふうん・・・まあ強引に連れてきたのはお前だからな」
「ああ。」
三成のつれない態度にも素直に頷いてくれる。
「兼続、」
「どうした? 」
「・・・普段のお前は、わざと阿呆に振る舞ってるんじゃないかとときどき思うことがある」
お前は馬鹿みたいに優しいから。
「そういう奴は嫌いか? 」
三成は俯く。パラソルの影より濃い自分の影が見える。
少し考えてから首を横に振った。
「・・・・いいや」
嫌いじゃない。多分、
「兼続、」
「まあ、今日は三成の生足が見られただけで役得なのだがな☆ 」
「はぁ?! お前っ・・もうさっきの取り消し、やっぱりただの阿呆だ! 」
上気した頬を膨らませて抗議する三成に兼続は心底おかしそうに笑った。
と、二人がいい雰囲気になっているころ。
左近はというと・・・
ついて早々、兼続は言いきった。
「あ、左近殿はお茶を買いに行くべきだろう。」
「え? あんたコンビニどこにあると思ってんですか、」
「あっち。」
残念ながら、この浜に海の家はないのだ。
徒歩、7分。
三成の「じゃあ、俺は緑茶で。」の一言で左近は寂しく一人、コンビニを目指して歩く
はめになってしまったのだ。
「くっそなんで俺が・・・ああ、殿とのめくるめく浜辺デートが・・・」
すれ違う若い女の子たちのはしゃいだ声に左近はがくり、と頭を垂れた。
湯気が立ちそうなアスファルトが恨めしい。
浜辺はまだ遠い。
to be continued....?
やっぱりね。この話し左近にヒドイ(笑
はあ、やっとこさ海に辿りついたな・・・。
これから何が起きるんですかね?