『嘘つきな君は』



当たり前のように愛し合うけれど、やっぱりどこか切なくて、黄耳は主人の肩に額を押しつけた。
お互いの心の内を知っている同志だからこそ結ばれない、そんな気がした。

「いっつも壁を作ってるのは黄耳の方だよ。」そう言ったのは雲だったか。
鋭いところを突く人だ。
だから嫌いなんだな、と黄耳は苦笑した。


陸機は優しくて、でもその愛情がどんなものなのか黄耳には測りかねた。


「好き」だとか「愛してる」と言えば、陸機は「うんうん」と嬉しそうに頷いてくれる。
自分も黄耳が大切だと、言ってくれる。

だが、それは必ずしも同じ意味ではない。

陸機は主人で、黄耳は犬だ。

犬に好かれて主人は喜んでいる。ただそれだけ。

あの人の言う「愛」は、ぬいぐるみに向かって「可愛い」とか「好き」というのと同じなのでは
ないだろうか。
自分を無条件に慕ってくれるものを人は邪険に扱わない。
つまり、彼の黄耳に対する愛情は、犬とか猫を愛するところから脱しないのだ。

それは家族愛かもしれないし、庇護愛かもしれない。でも、人間が他の誰かを愛するのとは
少し違う気がする。
純粋無垢で、でもそこから何も望まない。だから長続きもするし、関係が壊れることもないけれど、
それは一生分かりあうことがないということ。
ぶつかり合うことがないから、そこから先には進めない。生臭い感情に出会うこともない。

それが良いことなのか、悪いことなのか。
いやきっと、いいことなのだ。二人にとってはそれが、一番いい関係なのだ。
でも…。


「士衡さま、」

「ん?」

「愛してます。」 


その言葉しか知らないから。その言葉しかあげられない。
もがく心をそのまま貴方に押し付けられたらいいのに。
だけどそんなことして、貴方が傷ついたり汚れたりしたら、居たたまれなくて生きていけない。


「どうしたの急に?」

「大好きですよ」

「私もだよ、」


無邪気に笑う。

そう。いつだって、この笑顔の先を知る勇気がない。


「貴方が好きだ」と言っても伝わらない。
子供が親にそうするようにしか、映らないのだから。必死にしがみついても、彼は困ったように笑うだけ。
突然、牙をむかれても「どうしたの?」と悲しそうに笑うだけだろう。


(貴方は綺麗過ぎて、私の手の届かないところにいる。)


結局は、この隔たりを埋めるものなどないのだ。

心の溝? そうじゃない。貴方の心を知りすぎているから近づけない。困らせるだけだと知っているから
動けなくなる。


ねえ、どうして…。


どうして、私は貴方じゃないのか。もしも、二人が一つだったらこんなに苦しい思いはしないのに。


バカげた妄想だ、と黄耳は自嘲した。

「もしも」なんて言葉はいつだって無意味だ。叶うはずがないのを知っていて口にするなんて、らしくない。


きっと、このまま。ずっとこまま。それがいい。それで、いいのだ。二人のために。貴方のために…。

口にすることはない。
ただ一つの願い、貴方がほしいと。貴方に「愛されたい」とは言わない。
永遠に。

「貴方だけを愛してますよ・・・」

黄耳は目を閉じた。愛しい人の優しい笑顔を見ないように。

fin.


 寂しい。何この話・・・;
 イケイケどんどんwwな黄耳も好きですが、たまにはセンチメンタルに(苦笑)
 大切にしすぎて触れられない。壊れてしまわないように、ってずっと我慢してる犬。
 それも良いかな〜と。つづきが書きたいです(^u^)

モドル