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窓の外を眺めると、もう空は薄暗い。
それでもまだ夏の気を残した空は明るく、マンションやら街灯のせいで星は
見えない。
時計に目をやれば、短針は7の手前を示している。
先週まではまだ明るかったのに、と思うと着々と日暮は早くなっているようだ。
「負のオーラが出ているな。どうしたのだ幸村、アレは?」
奥で夕飯の支度をしていた兼続はひとりたそがれている少年を差して問う。
その表情には苦笑が多分に交じっている。
「ああ、三成殿がいなくてがっかりしたみたいですよ。なんだか可哀そうですね・・・」
「ははは、可哀そうに見えるのか幸村には」
兼続はエプロンで手を拭きながら一人頷いている。
「え? だってさっきからずっとあそこにいますよ?」
「ずっとか、辛抱のある奴だな。だが店の前に座りこまれては迷惑だな」
「そうでしょうか? きっとパン食べたら帰りますよ」
「どかしてこようか」
「や、やめてあげてください!」
なんとなく追い打ちをかけるようで幸村には躊躇われたのだ。
そんな心優しい弟の顔と、「可哀そう」と言切られてしまった少年の背を交互に
見つめる。
「仕方ない、今回はあやつもこちら側の人間ということか」
「え?」
きょとんとする幸村に「あれが恋煩いだ」と教えてやる。
ちりんちりーーん
自動ドアが開閉する度に、万年下げっぱなしの風鈴が鳴る。
「こら山犬」
闇に慣れ始めた目にコンビニの光は眩しい。
「・・・?」
うっそりと顔をあげた政宗は「なんじゃ兼続か」、と吐き捨てた。
「なんだ、ずいぶんな挨拶だなぁ。・・・さて、いつまでそうしているつもりなのだ
政宗?」
「べ、別にいいじゃろ、わしの勝手じゃ! ちゃんと商品も買っておるし、わしは
客じゃぞ!」
座したままぷいっとそっぽを向いてしまう。
そんな子供じみた姿に、兼続は肩をすくめた。
(仕方ないやつ。)
できの悪い弟がもう一人できた気がする。
幸村と違って兼続には、政宗が落ち込んでいる理由が分かっていた。
単純に三成に会えなかった寂しさからではない。問題は、その理由だ。
まさかの島左近・・・。
(さて、どう励ましてやるか。)
いや、実は大人げない話だが、それもなんだか癪なのだ。
「男の子は下手な励ましの言葉より手荒くされるほうがマシ。」と、兼続は政宗には
気づかれぬよう小さく肩をすくめて口を開いた。
「『そんなものばかり飲んでいないで、これを飲め。』と、三成に言われたんじゃ
なかったのか政宗?」
三成の口調を真似て、両手に持った牛乳瓶二本を軽く振って見せる。
「なんじゃ、なんのつもりだ兼続。笑いにきたのか」
「ああ。その通りだ、」
「この・・・・」
「特別におごってやろうというのだ。ほら、」
「はぁ〜本当か?」
「やはり貸しにしておくことにした。」
「ツケか・・・」
片方を政宗に渡してやると早速、兼継は自分の分に口をつける。
「仕方ないのぅ」
牛乳瓶のフタなんて久しぶりに開ける。
政宗も嘆息して、あまり好きでもない牛乳に口をつける。
しばらく二人は無言で濃い紫の空が暮れていくのを見つめていた。
「はぁ…」
「元気が取り柄の政宗が、今日は大人しいではないか?」
「・・・なあ、兼続」
「ん?」
並んで商店街の明りを見つめる。
不満たらたらに政宗はさらに背を丸めて、唇を尖らせた。
「なんで! なんで三成が島のおっさんのとこなんじゃ?!」
そんなこと言われても。とは、政宗の真剣な眼差しの前では言いにくい。
仕方なく兼続は溜息をついた。
「・・・さぁ。」
「なんじゃ! 頼りないのう、なんであんなっもみあげおっさんのところに三成を〜
…ぅう!」
(悔しい気持ちは分かる政宗、わたしも同じ思いだ! )
どれだけ複雑な思いで三成を送り出してやったことか。
涙が出そうだ。
だが、お兄ちゃんのプライドにかけて公言はできない。兄としては可愛い三成に
懸想する政宗もちょっと目につく存在なのだが。
大敵の前では心を同じくするものだ。
励ますのは癪だが、敵に塩を贈るのも義だ。
「そう思うなら政宗が三成より大きくなって自分で守るんだな。」
「い、言われなくても三成はわしが嫁にもらうわ!」
それもダメなんだけどね。
元気が出てきたところで兼続はふと思い出したように政宗の顔を見て言った。
「まあ、今回は心配ない。」
「? なぜじゃ?」
「安心しろ政宗。…利き腕なしの男になにができる?」
「あ」
ふふん。と笑う謀士、兼続の顔はそれはそれはいい笑顔だったとか。
ssに戻る。
特にオチがな・・・(え)
政宗→三成と言いつつ、三成出てない! 三成の気分次第で
このssのカップリングは変わると思います。スリリングな話だ(笑)