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『王様ゲーム』

宴会、それは飾り立てられた戦場。
だれもが煌びやかな仮面の下に、野獣の本性を潜ませている。

さて、今宵も繰り広げられるのは己のプライドさえかなぐり捨てた愚か者たち
の饗宴。


「三成、ここは王様ゲームでもして場を盛り上げるべきではないか?」
行儀よく挙手して聡明そうな青年が言う。

「は? なんだそれ。」
「なんとここに割り箸とマジックがある! つまりこれは王様ゲームをしろという
 義のお導きなのだ。」
「え・・義? そうなのか?」
「合コンにおける伝統的かつ、効率的なお遊戯。そう! それが王様ゲームだ三成☆
 これを義と言わずしてなんという?」
「むしろ不義な気がするのは俺の気のせいなのか」
「イカ、・・・いや兼続殿の言うとおりです、われらの親睦を深める良い機会では
 ないでしょうか! 」
爽やかスポーツマン、大学2年生の真田幸村が目を輝かせる。

「いや~・・そういうノリではないだろう、なぁ?」

先からあまり乗り気でないのは、3年生にして学内随一のマドンナ(本人は気付いて
 いない)石田三成である。

彼に「なぁ?」と呼びかけられたのは留学生の陸兄弟こと、兄の陸機と弟の陸雲である。
二人は困ったように顔を見合わせている。
陸兄弟が中国の姉妹校から留学してきて早3か月。
ひそかにその可愛らしさから、学内では「二陸」と呼ばれ諸先輩方の噂の的になって
いるのだが、こちらも本人たちに自覚はない。

「王様ゲームってなんですか? 」
「さぁ、わたしは知らないよ? 日本のゲームなんじゃないのか」

「興味ない」と言いたげな兄、陸機は無愛想にも兼続たちを横目にストローで
オレンジジュースをすすっている。

その罪、不遜とあだ名される男。

陸機は文字通りの鼻っ柱の強そうな美人である。
少し傾げた首に艶やかな黒髪が乱れかかる。
冷然とした美貌と不遜とさえ取られかねない態度、異国人というだけでも目立って
しまうのに、その態度から彼をよく思わないものも多い。

何より、彼は頭がよかった。
すぐにこちらの言葉も覚えたし、学内でも文系有数の頭脳を誇っている。
それがまた敵を作るわけで完全に悪循環だ。

「なに? 王様ゲームを知らない! それでは教えてやらなければ、な、三成?」
「ん・・・・うう、そうだろうか」
「どういう遊びなんですか? 」

兄とは打って変わって雲が朗らかに訪ねてくる。
小首をかしげる姿はどこか美少女めいていて、愛嬌がある。
大きな瞳と、よく笑う口元。温和な性格もあって雲は兄より人づきあいがうまいようだ。

「やってみるのが一番だな、」
「え~っと、忘れられてるみたいですけど、俺もいますよん? 」
「あ~左近。」
「三成さん、一応先生ですよ。」

実はこれ、サークルの合同コンパだったりする。
ファミレスだか、居酒屋だか分りずらい大学近くの店。
「義」を掲げる書道サークル「愛義同盟」のメンバーがお座敷でテーブルを囲んでいた。

「なぜ保護者がいる? 」
「邪魔もの扱いですかい兼続さん、サークル顧問として同伴ですよ、同伴。あんたらだけじゃ
 心配だ。大人がいたほうがいいんですよ宴会は。」
「宴会じゃありませんよ? 親睦会です」
「幸村~どっちでもいいからそこは。」
「つまり、ここは左近のおごりということだな」
「え?! ち、違いますよ! 三成さんなにをさらっと言ってんですか」

「本当ですか? ごちそうさまです。よかったですね兄上、」
「うん、よかったね今月ちょっときつかったし、」
にこっと笑うと機の形のいい口元から鋭い犬歯が覗く。

ずぎゃーーーーん!

手に手を取り合う兄弟。常ならぬ陸機の優しい笑顔に一同が凍りついた。

(ふんっ可愛いではないか・・・陸機)
(なぬっ?! 「うん」って・・・語尾にハートがついていなかったか幸村ぁ! )
(か、可愛いですね・・笑うと別人ですよ兼続殿?!)

「実を言うと仕送りしてもらっているとは言え、都で暮らすのにはお金がかかって・・・
 ね? 兄上」
「ああ、黄耳もいるし」
黄耳と言って、陸機は雲の隣に坐した青年を見つめる。
「すみません士衡さま。」
「助かります」

さすがの左近でも雲のきらきらスマイルは断りずらいらしい。大きく肩をついて頷いた。

「わかりましたよ、お二人さんの分は俺が払いましょう! 」

ただし、兼続と幸村と黄耳の分は絶対に払うものか、と密かに心に決めた左近であった。
大きいお兄さんの分まで払ってやる義理はない。

「わ~左近先生優しい! 」
「すみません、先生・・・・わたしの分まで、」
「いやいや、陸機さん案外、しおらしいと可愛いですねぇ」
「? わたしはちゃんと礼儀をわきまえていますよ」
きょとんとする機はとても育ちがいいらしい。貴族独特のおっとりしたところがある。

「ところで、黄耳くんはいったいなんなんだ? いっしょに住んでいるのか?」
兼続が身を乗り出す。
「は? わたしですか」

二陸と同じ留学生だが、もちろん兄弟ではない。
黒髪に黒い瞳、均整のとれた体つきをしている。
それに人好きのする笑顔が柔和な、いわゆる男前である。

「ああ、黄耳はわたしの犬なんですよ」

――――― ん?

「は?!」
「犬・・・」
「ほほう、綺麗な顔してそういう趣味ですか陸機さん」
「意外だ陸機、・・・」

なんだかんだで親近感のある三成さへ顔を背ける。

「えっ」

「あ! 兄上ぇ! 」

脇から雲につつかれ、ようやく気がつく。

(そうか! しまった秘密だった!!!)

実は黄耳くん、陸機さんの愛犬だったりする。なんやかんやで今は人化して二陸と
一緒に暮らしている。
だが、このことは身内以外には内緒なのだ。もちろん、頭がおかしいと思われるからだ。

「そういうプレイなのだな、愛のなせるワザか・・・しかし不義な香りがするぞ陸機! 」
「破廉恥です!」
「ぷっプレイとか言うな兼続!!!」
横から「おっ三成さん赤くなってますね~」と左近が茶々を入れてくる。
が、当事者の黄耳はいたって澄まして言いきった。

「ああ、士衡さまがお望みならどんなプレイでも構いませんけど? 」
「黄耳っ」
「ま、ただ、私が犬っぽい性格ってだけです。そう言いたかったんですよね? 士衡さま、」
ほほ笑みかけられて陸機はただもう頷いくしかない。
「う、うん」
「わたしはただの居候です。陸家は豪氏ですからね、幼いころからお世話になっています。
 お二人の部屋に間借りしているんですよ。」

「そちらでは家族意識が強いからな。親戚一同で暮らしたり、居候を養うこともあるのだろう。」
「なるほど」
「そういうことですか~」
「ええ」
愛想笑いする愛犬に陸機は詫びた。

(すまない黄耳、・・・!)
(いいんですよ。でも駄目じゃないですか、気を抜いちゃ。男はみんな狼なんですから)
(え? )

分かっていないらしいが、まあ良しとするか。と犬は勝手に頷く。
それに陸機に哀願するように見つめられるのは悪い気がしないのだ。


「3対3か、なかなかいいメンツではないか! 」
「ちょっとそれ俺、入ってませんよね兼続さん?」
「だって左近殿はただの同伴ではないか。なぁ三成? 」
「そういえばそうだったな。」
「まんま合コンじゃないですか。親睦会って言ったの誰だー?」
「すみません私です!」
「幸村は悪くないぞ、」
「三成さん・・・・」

「さぁ席替えを行うぞ! 」

「え~?」
「なに? なんで? 」

きょとんとする二陸をよそに兼続の独断により席替えが強攻されたのだった。

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 まだ続いちゃいます!